★二兎追う者は③
・入学式…凛ちゃんと同じクラスになる。
・初めてのライブ…凛ちゃんに私服がダサいと言われたけど、その後、凛ちゃんは洋服を貸してくれた。
・隼人先輩探し…乗り気じゃなさそうだったけど、凛ちゃんは最後まで付き合ってくれた。ウワサとは言え、隼人先輩は女癖が悪くて、深く関わらない方がいいと言ってくれた。
・隼人先輩を見つけた後…なんの事情も聞かずに、視聴覚室に行く私を送り出してくれた。
中学生になってからの凛ちゃんとの記憶をざっと書き出す。ここまで書いて、私はもう1度自分がまとめた内容を読み返した。
(私、どの場面でも凛ちゃんの気持ちを、無視している……?)
例えば初めてのライブの日。
凛ちゃんが私に服を貸してくれたのは、私がライブハウスで恥をかかないためだって思える。
先輩を探す時だって、凛ちゃんは先輩が高校生かもしれないって言うウワサを知っていたはずなのに、私に付き合ってくれていた。しかも次の日、確か、
『由菜のことが気になったんだよ!隼斗探し、今日もやる?やるなら付き合うけど』
そうだ、そう言ってくれた。
この時私は舞い上がっていて、凛ちゃんがせっかく心配してくれているのになんて答えた?
(大丈夫だって、簡単に断った。あの時の凛ちゃん、どんな顔をしていたっけ?)
その後も1つ1つ、自分の行動を丁寧に振り返ってみた。その時の凛ちゃんの表情や声を思い出しながら。
どれもこれも、私のことを心配してくれていた凛ちゃんの姿が浮かび上がる。だけど、それに対しての私の態度は。
(最悪だ。私ってこんなにも、自己中だったの?)
自分への怒りが込み上げてきた。
どの場面の私も、私はいつも私が優先で、凛ちゃんのことを考えていなかった。
私はそのままフラフラとベッドへ倒れこむ。
(隼人先輩が言っていた『思い上がるな』って言うのは、そういう意味だったの?)
ようやく1つ答えを導き出せた気がした。そしてまた1つ疑問が浮かぶ。
(凛ちゃんは、言っていた。由菜のそんなところって。凛ちゃんはいつから私が自己中だって、気付いていたの?)
もしかして、私は小学校の時から凛ちゃんに迷惑をかけ続けていたのだろうか。
そんなことを考えている内に、私はうつらうつらしてきて、気付けば意識を手放していた。
はっと気付いた時、部屋の中は真っ暗になっていた。
(あ、制服だ……)
私はぼーっとする頭の中で制服から部屋着へと着替えを開始する。着替えながら何の気なしに見上げた時計の針は夜の9時になろうとしていた。そのまま視線を落とすと、広げっぱなしにしていたノートが目に付く。
(凛ちゃん……)
今までの自分勝手な行動が頭をよぎる。そんな私に文句も言わずに付き合ってくれていた凛ちゃん。大切な私の親友。私は、凛ちゃんを失いたくはなかった。
一刻も早く謝りたい。気持ちだけがはやるも、明日はあいにく土曜日で学校は午前中の部活動のみだった。凛ちゃんの弓道部は土日は休みだったはずなので、明日学校で凛ちゃんには会えない。部活終わりに凛ちゃんの家に寄ってみようかな、と考えたところで自分の中でストップがかかる。
(突然行ったら、迷惑になるだけだ)
私はそう思いなおしてからケータイを手に取る。
凛ちゃんへメッセージを送ろうと思ったのだが、声じゃない分、誤解を生みそうで怖かった。何度も文章を書いては読み返し、削除しては打ち直し……、それを繰り返して自分の納得がいく文章が出来たのは夜の10時近くになった頃だった。
『凛ちゃんへ
会って、直接謝りたいことがたくさんあります。
明日、部活の帰りに家に行ってもいいですか?
気付いた時でいいので、お返事ください。 由菜より』
何とか完成した文章を読み返す。もうこれ以上の文章は考えられない。
送信ボタンを押そうとする指が震えているのが分かった。
(えい!)
私は思い切ってボタンを押す。するとすぐにメッセージには既読の文字が付いた。が、返事は返ってはこなかった。
(やっぱり、会いたくないのかな……)
落胆しながらお風呂に入る準備を進めている時だった。
ピロン♪
私のケータイがメッセージを受信したことを知らせる。
私は急いでケータイを手に取るとそのメッセージを確認した。それは凛ちゃんからのメッセージだった。
『分かった』
たった一言ではあったが、ちゃんと反応してくれたことが嬉しかった。私はすぐにお礼の文章を打ち込む。
『ありがとう。明日、お邪魔します』
送信ボタンを押すとすぐにまた既読がついた。それからの返事はなかったけれど、明日は凛ちゃんに会える。今までの自分のことを、しっかり謝らないと。
そう改めて思い、私は寝る準備のためにお風呂へと向かった。
次の日の午前中、私は部活に出ていた。2日も休んでしまっていたので、先輩からはこっぴどく叱られてしまった。しかし今日の午後は凛ちゃんに会える。そう思うと早く部活が終わらないかな、なんて思ってしまうのだった。
そしてようやく午後を迎え、部活の時間が終わった。私は
早く凛ちゃんに会いたい。会ってしっかり謝りたい。
そんな思いから、凛ちゃんの家までずっと走っていた。
凛ちゃんの家に着いた時、私の息は乱れ、汗だくの状態だった。少し待って息を整えてから、凛ちゃんの家のインターホンを押す。
少し間があった後、凛ちゃんの家の玄関ドアが開いた。ドアを開けた凛ちゃんは私の様子を見て、少し驚いたように目を見開いている。私はなるべく明るく、凛ちゃんに挨拶をする。
「凛ちゃん、やっ!」
まだ息が乱れていて、うまく言葉が出てこなかったが、こうして面と向かってまた凛ちゃんと話が出来ることが、私は嬉しかった。そんな私の様子に、凛ちゃんは少し呆れたように声をかけてくれる。
「由菜……。ここじゃアレだし、中に入って」
私は凛ちゃんに言われるまま、凛ちゃん以外誰もいない家の中へ『お邪魔します』と挨拶をして入る。そんな私に凛ちゃんは、
「先に部屋行ってて」
と言うと、どこかへと姿を消してしまった。私は言われた通りに凛ちゃんの部屋へと向かった。
凛ちゃんの部屋の中は、所狭しとコスメ用品やファッション雑誌で溢れている。相変わらずの女子力の高さに目を奪われていると、凛ちゃんがお盆を持って部屋の中に入ってきた。
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