★二兎追う者は②
「あなた!一体何がしたいのよっ!」
私の怒りを受け止めた杉浦さんの顔から笑みが消える。代わりに私に向かって軽蔑したような視線を送ってくる。
「勘違いしないでよ。確かにきっかけは私が作ったけども、凛をあそこまで追い詰めたのはあなた自身じゃない」
「どういう意味?」
私の問いかけに、杉浦さんは完全に軽蔑の視線を私に投げかけてくる。
「凛の言っていた通りだね。人に聞いてばかりじゃなくて、少しは自分の頭で考えたら?優等生なんでしょう?」
じゃあね、と私のことを
(今のは、何?どういうこと?全部、私が悪いってこと?)
疑問はたくさんあったが、確かめる術がなかった。
私が凛ちゃんを追い詰めた?いつから?何がきっかけで?
その場で思い返してみても私には心当たりが全くなく、心の中に重たい
その日の午後の部活は休ませて貰って、私は重たい足取りで帰路に着いていた。頭の中がぐるぐるとしていて整理がつかない。
(帰ったら、お兄ちゃんに相談してみよう……)
そう思った瞬間、杉浦さんの言葉が蘇る。
『人に聞いてばかりじゃなくて、少しは自分の頭で考えたら?』
(駄目だ、ここでお兄ちゃんに頼ったら、何も変わらない気がする)
私はお兄ちゃんに相談すると言う考えを捨てた。
とにかく今は、頭の中を整理しなくては。家に帰ったら、紙に今までのことを書き出してみよう。
「ただいま!」
「おかえり、由菜」
リビングから私を迎えるお母さんの声が聞こえてくる。普段ならここでお母さんの顔を見に行くところだったが、今日は時間が惜しかった。私は一目散に自分の部屋へと向かう。そしてため込んでいたいらないノートを1冊引っ張り出す。
すぐに机に向かってノートに今日の出来事を書き留めていく。更に凛ちゃん、隼人先輩、杉浦さんの言葉を大きめの字で書き起こしていく。そうすることにより、私の頭の中は少しずつ整理されてきた。同時に冷静さも取り戻してくる。
ノートに書き出した内容を客観的に見てみる。そして1つのことに気付いた。
(凛ちゃんは私の身勝手なところをずっと耐えてきたってこと?)
「由菜~、ご飯よ~」
そこまで至った時、夕飯に呼ばれてしまう。
(いけない!着替えなきゃ!)
私は急いで私服に着替えると、夕飯の席に降りていった。
その日の夕飯の味は良く覚えていない。頭の中は凛ちゃんのことでいっぱいで、気付いたら凛ちゃんのことを考えていたからだ。
私が普段よりも口数が少ないからか、お兄ちゃんが声をかけてくれる。
「由菜、学校で何かあったのか?」
凛ちゃんのことを考えていた私はお兄ちゃんの言葉にはっとして、慌てて頭を横に振る。
「何でもないよ」
「そうか?何かあったら何でもお兄ちゃんに相談しろよ?」
心配してくれるお兄ちゃんの心遣いがありがたかった。
(でも、今回は自分でどうにかしないと……)
凛ちゃんに何か無理をさせて追い詰めていた。その何かの答えは自分で見付けないと意味がないと思った。
夕飯を終え、お風呂に入っている時も考えていたのは凛ちゃんのことだった。思えば、こんなに長い時間凛ちゃんのことを考えたことはなかった。
(凛ちゃんは、親友なのに……)
親友のことをないがしろにしていた自分に気付いた私は、何だかへこんだ気持ちになる。
お風呂から出ると学校の宿題に取り掛かろうとした。しかし宿題を前にしても全く進む様子がみられない。
(駄目だ、今日はもう寝よう)
宿題を先送りにするだけだとは分かっていた。だけど再び凛ちゃんのことでぐるぐるし出した思考から逃げるように、私はベッドへと潜り込んだ。
翌日からの授業はテスト返しも一段落したため、通常通りに戻っていた。体育の時間は6月に行われる体育大会の練習が始まる。
今朝、私は凛ちゃんにいつものように挨拶をしたが無視されてしまった。そんな凛ちゃんは体育の授業も杉浦さんと一緒で、チラリとも私の方を向いてはくれなかった。
そうして午前中の授業が終わる。私は教室に居づらさを感じて1人、
(1人って、
そんなことを思いながらちびちびとご飯を食べていたせいで、普段よりも時間がかかる。
ご飯を食べながら思い起こすのは、つい先日まで一緒に笑いあっていた凛ちゃんのことだった。私は凛ちゃんといつもお昼を食べて、それから、
(それから、隼人先輩に会いに行って……、ってあれ?)
私はそこで何かに気付いた。
(私が隼人先輩の所に行っている間、1人になる凛ちゃんは、どんな気持ちで私を見送ってくれていたの?)
それだけじゃない。隼人先輩を探していた頃だって、どんな思いで私に付き合ってくれていたのだろうか。
芋づる式に今までの行動が蘇ってくる。
私が過去を振り返っている途中で、授業が始まる前のチャイムが鳴り響いた。
(しまった、隼人先輩の所に行きそびれちゃった……)
私は心の中で隼人先輩に謝ると、急いで教室に戻るのだった。
それからの授業は全く身が入らなかった。何か、喉に引っかかっているような感覚。もう少しで答えが導き出せそうだった。
そして授業後、私は部活に顔を出すことなく急いで教室を出る。
昨日のノートを見返したい。
そんな思いで急いで家に帰る。
「ただいま!」
「おかえり、由菜」
私は今日もリビングに顔を出すことなく、自室へと急ぐ。そしてすぐに昨日のノートを取り出した。そこに今までの自分の行動を書き出していく。
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