★新しい自分と、偶然の出会い①

 翌日の日曜日。

 私はお兄ちゃんと一緒に街の方まで電車で出かけることになった。街にはたくさんのファッションビルが立ち並んでいる。その中の1つに、お兄ちゃんは連れてきてくれた。

 中にはとてもお洒落しゃれな人がたくさんいて、私はなんだか場違いな感覚に襲われる。しかしお兄ちゃんは臆することなくファッションビルのレディース服のフロアへと連れてきてくれた。


「好きなお店に入っていいよ」


 お兄ちゃんはそう言うものの、


「なんか、どこも、高そう……」


 私が気後れしているのを知ってか知らずか、お兄ちゃんは明るく言う。


「大丈夫だって。お兄ちゃんもバイト始めたし、由菜は心配しなくていーの」


 優しいお兄ちゃんの言葉に後押しされ、私はゆっくりとフロアを歩き出した。色々なブランドの服が並んでいた。大人っぽい服を扱う店や、色彩が奇抜なちょっと派手な服を扱うお店。色々と目移りしてしまう。


(あ、これ凛ちゃん好きそう……)


 そんなことを思っているとあっという間にフロアを1周してしまう。


「何か気になる店はあった?」

「えっと……」


 色々な店が立ち並ぶ中、私がいちばん気になったのは、ガーリーなフリルやレースをふんだんに使った洋服を扱うファッションブランドだった。


「じゃ、入ろうか」


 お兄ちゃんは明るい店内へと足を踏み入れていく。私はその後を追った。


「いらっしゃいませ」


 店内に足を踏み入れると、お姫様のような恰好をした店員さんに声をかけられた。


(うわぁ、可愛い人……)


 私は思わずその店員さんに見とれてしまう。


「何かお探しですか?」

「いえ、あの……」


 私が答えに困っているのを察してくれたのか、店員さんは、


「お好きなものを手に取ってご覧くださいね」


 と優しく微笑んでくれる。

 私は店内を練り歩きながら自分に似合いそうな洋服を探す。どれも可愛らしい。中でも気になったのは、オフショルのニットトップスだった。首回りに大きなレースがあしらわれており、首回りをぐるりと1周している。そのため、後ろ姿はシンプルでも可愛かった。正面の裾の部分にレースのリボンがついていて、長めの袖は手首のところで同じくレースのリボンできゅっとしまっていた。


「これが気になるのか?」


 黙って私の後ろをついてきてくれていたお兄ちゃんが声をかけてくれた。


「うん……。でも、色が3色もあって、どれがいいか迷う……」


 そう、同じデザインのトップスは3色展開だった。ピンク、白、黒。どれも可愛くて迷ってしまう。すると、先ほど声をかけてくれた店員さんがやってきた。


「こちらは春の新作になっております」


 笑顔で商品の紹介をしてくれる。


「どの色がいいと思いますか?」


 私が迷っているのを知ったお兄ちゃんが店員さんに尋ねてくれた。


「そうですねぇ。大人っぽいのは黒ですよ。ピンクだとちょっと甘すぎて幼さが残るかもしれません。白だと清楚な感じに仕上がりますよ」

「だ、そうだ。どうする?」


(……)


 私はしばらくの間考えて、


「黒、かな」


 そう答えた。やはりここは少しでも大人っぽい感じにしたいと思ったのだ。ピンクも可愛かったが、幼さが残ると言われたら、少し敬遠けいえんしてしまった。


「じゃあ次は、ボトムスだな」


 お兄ちゃんが当然のことのようにそんなことを言う。私は驚いて思わずお兄ちゃんの顔を見上げる。


「それだけじゃ、全身コーディネートは完成しないだろ?あ、そうだ、靴も必要になるな」


 お兄ちゃんは独り言のように言うと、先ほど洋服の説明をしてくれた店員さんに話しかけていた。


「これに合うボトムスでおススメはありますか?」

「そうですねぇ……」


 店員さんはしばらく考えたのち、1着のスカートを手に取ってくれた。それは少しタイトな感じの膝丈のチェックスカート。巻きスカート風になっており、布が重なる部分には真珠のようなビーズが施されている。色味は明るいグレー系だった。


「うわぁ、可愛い……」

「ありがとうございます」


 思わず出た言葉に、店員さんは笑顔で答える。


「こちらでしたら、そちらのトップスを着ても甘すぎることなく、でも可愛らしく着こなすことが出来ると思いますよ」


 私はそのスカートに一目惚れしてしまった。その様子がお兄ちゃんにも伝わったようで、最後に靴選びをしてくれた。


「このコーディネートでしたら、やはりパンプスタイプの靴が良いかと思います」


 店員さんは最後まで私のコーディネートに付き合ってくれた。靴が並んでいる場所まで案内してくれる。


「こちらのローファーなんて、いかがでしょうか?」


 そうして提案してくれたローファーは、黒の厚底で、足の甲の部分にはリボンが付いていた。


「こちらのリボンは取り外しも可能ですから、コーディネートの幅も広がりますよ」


 にっこりと言われ、私は初めてスニーカー以外の靴に足を入れる。


(きつい……)


 少し足が窮屈な感じがする。厚底だったので目線が少しだけ上に上がった。今まで見えていたものとはまた違った視線になり、なんだか新鮮だ。


「ちょっときついですか?」


 店員さんが心配そうに声をかけてくれた。


「大丈夫です。慣れたら、歩けるかな、と」


 私はおずおずと答えた。


「では、あちらで一度お洋服のご試着もしていってください」


 店員さんは明るい声で試着室へと案内してくれる。

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