第3.5話【villains elegy-アクニンドモノバンカ-】(4)
「おや……珍しいですね、こんな夜更けに」
銀縁の眼鏡をかけ白衣を纏った、いかにも医者という風体をした男。
「見た所皆々様、いたって健康に見えるのですが。診療とは別の御用でお越しでしょうか?」
「えぇそうです。主にあなたとご子息に用があって」
不敵な笑みを浮かべながら、
「私と息子に、ですか。はて、失礼ですがどなた様でしょうか。記憶を掘り返そうとも全く思い出せません。以前、
「いやいや、今日が初対面ですよ。改めて自己紹介をするならば、僕たちは神の七本足に最も近い存在。といっても分かりませんよね」
「今、何と? 神の七本足とは? 皆目見当が付きませんが……」
「あなたの嫁である
「なるほど……魔術師なのですね。皆々様は」
「理解が早くて助かります。通じた様で嬉しい限りです。さて、それではご同行いただけますか」
選択肢を与えず、有無を言わせぬ様相で
「断る、と言ったら?」
意外にも
「あなたが無益に痛い目を見るだけです。あるいはそれを通り越して、痛みすら感じない
勿論これは
「そうですか。そうですよね。いつかこんな日が来るかもしれないと覚悟していましたが。答えはNO――「なら死んでろよ」――ッ!?」
つむじ風の様な速度にて
電光石火の早業で繰り出された
「……いきなりにも程があるでしょう。何やってくれてんですか貴方は」
冷や汗をかきながら、強襲者からの不意打ちをやり過ごした
「ふざけんな。何いっちょ前に防御してくれちゃってんだよおっさん。つーか反応できたのは百歩
その気になれば鉄板すら突き破る威力を誇る一撃が、生身の腕一本で防がれたという事実が示す
「なー。なーなー。こいつさぁ、魔術師なんじゃね?」
「五体満足なところをみると、そうだと断定するのが賢明かのぅ」
「守護者の核を引継いだことによっての力なのかもしれませんね。止むを得ない。確保は諦めて、このまま一気に畳みかけて殺してしまいましょう」
少なくとも白石
そんな事前情報を持っていた彼らだったが、この有り様を目の当たりにし、認識を改めざるを得なかった。
「いや、ちょっと待ってください。何やら盛り上がっている所、水を差すようで恐縮ですが……。いきなり殴りかかってきて謝罪も無しに、あまつさえ殺害予告なんて正気の
「……あぁ? お前今なんつったコラ」
「ですから。
「かかかっ!
高笑いし
「とくあのくたらさんみゃくさんぼだい」
直後、爆竹を鳴らしたかのような破裂音が足元から鳴り、地面が揺れる。
そして
彼の周りをぐるりと取り囲むそれらは、
「なっ……? あっ! うぉおおぉおおお!!?」
たまらず
一蹴りで優に4~5メートルはジャンプした彼だったが、
しかしその後地に足つける事は叶わず、空中に固定されてしまう。
「???」
身体の至る箇所を縄の様な何かで縛られている感覚はあるにもかかわらず、何故か視認はできなかった。
「捕まえた。大した運動能力と
「ただの一般人に、魔術師が寄ってたかって同時攻撃とは……ズルいんじゃあないですかね」
宙に縛り付けられ動けない
「おやおや知らないのですか? 魔術師同士の対戦に限らず、すべての勝負の基本とは“相手が嫌がることをやる”その一点のみだということを」
「お主は多少運動神経が優れていて、それなりに頑丈であるのは認めよう。だがのぅ単騎で如何に強かろうとも、型に嵌めて、実力を発揮する機会など寸分も与えず、何もさせない・起こらない状態にして一気に刈り取る。それが儂らのやり方なんじゃなこれが」
即席の連携によって
そんな両者の間に割り込むようにして、右方より
「これ以上手間ぁかけさせんじゃねぇよ。とりま眠っとけやおっさん」
引き絞られた弓の弦の如く後方に引かれた両腕が前方へと押し出され、無防備な
「ッッッ!? ッっがッ……はッ……」
「あん? だからなんで貫けねぇんだ? うちの腕前が鈍ったか? んな筈ねーし、どんだけ硬ぇんだよてめぇはよぉ」
「まぁいっか。このままボコり続けりゃそのままくたばんだろ。あーめんどくせー」
しかし、その行動は中断されることになる。
「お父さん。その人たち、だれ?」
携帯ゲーム機を片手に持った、パジャマ姿の子供。
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