第3話【limited express panic-ハンキュウジヘン-】(10)
つい先日、襲撃を受けた敵魔術師である
結果として情報を漏らすことになった(最後まで情報を得られなかった)が、その時ねねはあくまで「この人は自身の痛みに敏感そうだから
が、目の前にいる女は違う。
言うだけで終わらず、本当にやるという凄みを肌で感じ取れた。
「あぁそうそう。ワタクシもそこまで気が長い方じゃあないから、ジャリガキが選ばなければ両方するし」
ライダースーツの胸元よりハサミとペンチを取り出し、それらを両手に持ちながらゆっくりと
「くっ……来るなっ……」
「だぁめ♡ イクから~」
ねねは後ずさろうにも、黒泡を受けた足は依然として感触が無く、重すぎるが故に動く事が出来ない。
冷や汗をダラダラと流しながら、ねねは必死に雑念を振り払おうとしていた。
(爆弾で吹き飛ばされた
(どうにか、どうにかこの場を切り抜ける為の何か……策を、考えなければならない――ッ!)
しかし、一向に打開策は浮かんでこない。
湧き出る
その場
目か指かを
(言動から察するに、相手は
それこそ死んだ方がマシかと思わされるぐらいには、生かされ続けながら拷問を受けてしまうという地獄を、ねねは認めたくはなかった。
そうこうする間に、
「決断の時よぉ~。さぁ、どっ・ちにっ・するっ?」
「あっ……あのっ、えっと――」
「時間を稼ごうったって無駄よ無駄。何故ならこの辺りには既に人払いの結界を
「いや、というか、本当……すみませんでした許してください! 殺さないでください!!」
声を張り精一杯
「たまんないわね。ついさっきまで素っ気なかった奴が、手の平を返してしょんぼりする様ってのは。安心しなよ~、ワタクシは簡単に殺さないから。じっくりコトコト煮込んだカレーの仕込み以上に、時間をかけて楽しんであげるのよ~~。ひひひっ」
「あっ……あぁあああああぁあああ――!! うっ……ぐすっ……うぅう……」
ついにねねは耐え切れず、か細い叫びと共に涙を流した。
「ひひ、ひひひっ! いい、イイわそれ。最高に心地良い声を聞かせてくれて感激しちゃう! さて、それじゃあまずは目からいただきましょうか」
身体を小刻みに震わせながら、
「大丈夫よ~、動かなければ一瞬で済む……貴方が想像しているよりかは痛みはマシになるでしょうから――」
「あの……な、なんで目からなんですか……せめて指がよっ、良かったんですけど……」
「時間切れだからよ。ジャリガキ、クソするよりも簡単な問いに対して、テメェは答えるのに時間がかかり過ぎた。ワタクシは
「そう、ですか……って、ん?」
「何よ。これ以上の問答は
「いや、違いま……違くて。そうか、そういうことか」
涙で目を赤く
「ここまで追い詰められるまで気が付かなかっただなんて、いやはや、あたしもまだまだ未熟だったってことね……良かった、本当に」
「何を言っている?」
「魔術を込める武器を全て失って、逃げる事すらままならなくて。でも、そうじゃなかった。あったんだよ、たった一つだけ」
「はぁ? ならやってみろよ。こんだけ至近距離で、出来るもんならさっさとやれよ! 動いた瞬間、てめぇの身体全てを泡で覆い尽くしてぶっ潰してやんからよぉ!!」
追い詰められているのは相手で、追い詰めているのは自分だという確信があった
眼下で動けないこの未成年は、魔術を行使する際には歌を歌わなければならない。
加えて、
ねねが行動を起こそうとも、一瞬でねじ伏せる自信が
だが――彼女は思い知る。
「礼を言うよ、
「ごちゃごちゃウルセぇんだよこのジャリガ――」
ある程度の時間を有すると踏んでいた、詠唱代わりの歌だったが、
「ターンターンターンッ――“You Suffer But Why ?”」
1秒弱で終わる曲をねねがレパートリーとして持っていることを、
「ッッッッ!? ぁぐっ――――」
地べたに座り込んでいたねねから膝蹴りを顎へと叩き込まれ、
「……はぁ、死ぬかと思った。って、何回目だよこれ。同じこと言ってばっかだな最近のあたしは。はぁ……しんど……」
引きずる事さえままならなかった右脚の黒泡が消え失せていることに気が付き、ねねは相手がもう立ち上がってこない事を理解した上で、やれやれと溜息をつく。
「あたしの魔術は基本生き物には効かないし、それこそ両手で持てる物しか効果を及ぼさないんだけど、かといって持ち上げれるかどうかは重要じゃないし。そもそもあれだもんね」
たとえ自分の身体といえども相手の魔術によって感触が失われてしまっていたならばそれは物質と同義だもんね、と。
右脚をさすりながら、言った所で聞こえていない
「貴方の利き腕が左だったからこそ、閃いたってのもあったかな、うん。動かないように右手をあたしの首に添えたことで、あたしから見て右側のスペースがガラ空きだったから、イイ感じに決まった。まぁ結果論だけど」
ねねの魔術である
長ければ長いほど、速度や重量を付与することが出来、且つ複雑な運動性を物体に込める事が可能である。
とはいえ、地面に亀裂が走る程の重さを付与された右脚には、そのいずれかをも必要性は見当たらなかった。
だからこそ、重くなった右足を真上に1メートル程上昇させるだけの単純な動きだけで事足りたのだともいえる。
「童謡がメインで、Jポップとかはからっきし。だけども一応、押さえておいてよかったよ。殆ど時間のかからない、一瞬で終わる歌の履修って奴をね」
イギリス出身のハードコア、ヘヴィメタルバンドである
ねねがワンフレーズで終わらせたこの曲は世界一短い曲としてギネス認定がされており、演奏時間は1.316秒と至極短いものであった。
「つっても今回はマジに危なかった……かな。魔術が奥深いものだってのは実感できたけど、如何せん地力だけではどうにもならなくなってきたってのが素直な感想。
これ以上無駄足は不要、一刻も早く滋賀県へと向かわなければならないと再認識したねねは、早々に
そして、視界の端に一人の男の姿を捉えたところで、目を
「あーあーそりゃないよ。流石に三連戦はキツイって……」
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