第3話【limited express panic-ハンキュウジヘン-】(6)
「し、死ぬかと思った……しばらくジェットコースターには乗れない、かな……」
第一車両より脱出後、空高く舞い上がり何とか無事に地面に着地した
「へばってるとこ悪いんだけどさ、お姉さん。ちょっとスマホ貸してくれない?」
慣れているのか、疲労を微塵も感じさせない風であるねねは、先程まで敵対していた魔術師より携帯電話を受け取り、電源ボタンとボリュームボタンを同時に長押しする。
「何をやっているの?」
「通報だよ。あのままだと電車が
画面に映し出された緊急SOSのバーを左から右へと指でスライドし、次いで表示される“警察110”のボタンをタップするねね。
「あーもしもし。これは
一方的に要件を告げた後に通話終了ボタンを押したねねは、続いて腕を負傷した
「あたしたちはもうすぐというか、あまりここに長居してられないからさ。どうする? ついでに救急車も手配しておく?」
「いや。少し休んだら自分の足で病院に行くから平気だよ。わざわざありがとね」
ねねに骨を砕かれ痛み続ける腕を抑え、やせ我慢感満載な引きつった笑みを返す
――ドォンッ!!!
直後、轟音と共に東の空の辺りに赤黒い煙の塊が出現した。
「たーまーやー。これで爆弾も無事処理完了だね」
「あの、状況が状況だけに突っ込み切れなかったんだけど……。あなたのお友達も一緒に、時限爆弾と吹っ飛んでるのは想定内なの……?」
「問答無用で
涼し気な顔で応えるねねを、疑わし気に眺める
彼女が魔術を行使している間は意識を失っていることが前提としてあるが故に、死という概念を有耶無耶にする
「そ、そっか。分かったよ。じゃあこの辺でお別れだね。短い間だったけど、色々と迷惑かけてごめんね」
「もうその件は済んだってさっき言ったでしょ? あんまし必要以上に謝らない方がいいよ。もう気にしてないから」
じゃあ達者でねと手を振り、別れの挨拶を互いに告げる両者だったが。
「ルルル~♪ルリラリルル~♪ルッルッル~~~ゥ♪」
何処からか、口笛が聞こえてきた。
「ん? 何この音?」
「うっ……あぁ……」
首を傾げ辺りを見回すねねに対し、見る見るうちに青ざめた表情になっていく
それは一見して、真っ黒なゴミ袋に見えた。
二車線車両のど真ん中を、まるでラジコンカーの様に移動してきたそれは、ねねと
三角座りの体勢から立ち上がったその物体は、ゴミ袋などではなく、れっきとした人間であった。
肌にぴったりと密着したラバースーツに身を包み、纏った服装以上に濃い黒髪をなびかせる、女性が一人。
開けっ広げにされた胸元の谷間に右手を突っ込み、取り出されたその手には茶色い液体の入ったボトルが握られていた。
「がらららららららららら~~~~~、べっ!」
どうやらうがい薬であろう液体を口に含み、音を立てて口内をゆすぎ、地面へと吐き出した後、その女性は意地の悪そうな目つきでねね達を
「おーい。おいおいおいおいオイッ! 約束と違うじゃーんかおるチャンさ~。なんでここにいるのかなー? 電車の中でガキ二人ぶっ殺した後でアンタも爆死してる
「ッ! す……すみません、しくじってしまいまして……」
「いやいや別にどっちでもイイんだけどねーワタクシ的には。でも約束を
ケタケタと笑うラバースーツの女に対し、
そのやり取りを見かねたねねは、本来なら関わらずにその場を後にしても良かったのだが、沈痛な表情のまま
「ねぇねぇ、あのさ。お姉さんってもしかして、コイツに何か弱みを握られていて
「……えっ? あ、うん。そうだね……。でも、大丈夫だから。気にせず行ってくれても構わないよ……」
「全然大丈夫には見えないんだけど」
「……ごめんね」
「だから謝らないでってば」
「もしも~し、お二人さん! 行くだか行かないだか相談してるみたいだけど、かおるチャンはともかくもう一人のジャリガキは逃がさないよ~。この場でちゃあんと処刑してあげなきゃだもんねぇ?」
「はぁ。どうにも
眼前にいる女性の正体について、あらかたどのような者であるのか想像は付いていながらも、ねねは確認も踏まえ、念の為に相手へと名乗りを促した。
「ワタクシの名は
はだけた胸元を強調し、
「ふぅん、
「決まっているでしょ。つーか今言ったばっかじゃん! そこの間抜けが言付けを
真っ赤な舌を突き出し、親指で首を狩る
ねねはやれやれと溜息をつきながら、もうひと踏ん張りせざるを得ないのかと
「いや、仇為すとか言われましても。ぶっちゃけ
なるべく相手を刺激しない様に言葉を選びながら、自らの正当性を訴えるねねであったが、しかし
「胸ぺったんこで
ケラケラと笑いながら度を越した罵倒(あるいは挑発)を受け、ねねの表情は特には変わらない。
だが、心の奥底では、
「初対面でそこまで言うか、はぁ。やれやれだわ。一応年上みたいだし、これでも気を使ってたんだけどなぁ……。ま、いいか。命狙われてて、でもってその刺客は死ぬ程性格が悪い、と。ぐーよ、べりーぐー。遠慮は無用ってね」
深呼吸をし、前屈運動をし始めるねね。
「うん? もしかして効いてないアピール? それともここから逃げ出す準備運動って感じ? ひひっ、ひひひひっ! かわいいなぁ本当! クッソダサいわ! ひひひひっ!」
他者を
「あれ。おかしいな。下品で下劣で下衆丸出しの
つらつらと述べるねねの
「……決めたわ。お前のその刺々しい態度、気ぃ狂いそうなぐらい腹立つから、全身に針を刺して剣山デコレーションにしちゃうのけっってぇ~~~い! すぐには殺さないしッ! 出来るだけ長いことッ!! 可能な限り活かし続けてから
「うっわキレるんはやっ。
「う、うん……わかった……」
「お待たせ。ほいじゃ、やろっか?」
「吐いた唾ァ呑むなよグrrrrrrラァアアアア!」
そんな両者のやり取りを皮切りに。
綺羅星ねねと、現段階で彼女を狙う最後の刺客である
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