第3話【limited express panic-ハンキュウジヘン-】(5)
「っっっっっ!? ~~~~~~~~~!!」
ねねのゴムボールにより骨を砕かれたその女性運転手は、予期せぬ激痛によって強制的に意識が覚醒させられたにもかかわらず、悲鳴ひとつ上げなかった。
白目に黒の焦点が戻り、がくがくと身体を震わせながら痛みに耐え、無事であるもう片方の腕で口元を押さえ、必死に歯を食いしばっている。
それと同時に、第一車両に点在していた
「
言いながらねねは、悶える魔術師に構うことなく、折れた彼女の腕を踏みにじった。
「ぐっ……ぎゃあぁああああぁああああ!!!」
今度こそ
「あんまり大きな声を出さないでよ、
「うっ……ぐぅ……うぅぅう~~~……終わり、もう終わりよ……」
「何が終わりなんだか。えっと……
「私は……いえ、私たちはもう終わりなのよ……だって、私が声を発してしまった所為で、この爆弾はもう解除が出来なくなってしまったから……う、うううう、ふぐぅ……」
「はぁーん。やっぱし、映画みたいに2択で配線を切断して正解していれば止まる、って訳じゃあないってことね。知ってた、うん。むしろあなたが声を上げた瞬間にボンッ! ってならなくて良かったと
面倒だなぁと頭をかくねねを見、
「どうしてそんなに落ち着いていられるの……?」
「だって状況が状況だし。爆弾はオマケみたいなもんよ。停止不能な列車に閉じ込められている時点で、そこそこしんどい感じでしょう? ま、それでも車内戦闘は一旦止めれたから、あとはここから出るだけっていうか」
よっこらしょと身をかがめ、もはや爆発することが確定している時限爆弾を抱えるねね。
「床に直接ボルトとかで固定されていなかったのは不幸中の幸いだね。それなりに重いけど……持ち運び可能なのは
ねねの言葉を受け
命を狙っていた刺客に対し救いの手を差し伸べようとしている意図は何なの、と。
「あなたにとって私は敵なのにどうして?」
だからこそ
「うーん、なんでだろうね。これは勘だけど、お姉さんって神の七本足とかいう中二病全開の集団に属していないじゃないのかなぁーって。昨日会ったぺらぺらになる
「ボウガンで撃たれたり、同伴者をフルボッコにされたりしたけど、お姉さんの片腕を潰したのでおあいこってことじゃあ駄目かな?」
不思議そうに首を傾げるねね。
「敵わないな……。分かった、約束する。それに私の魔術は意識を失っている間にしか発動出来ないから安心して欲しい。むしろこちらからお願いするよ、一緒に連れて行ってください」
彼女自身、好きなタイミングで気絶が出来るという特技を持っており、且つ寝息がイコールで詠唱となる為、本来は不意打ちに適した魔術ではあるのだが。
もはや彼女の中で戦意は失われていた。
「決まりだね。じゃあお姉さん、こっちへ来て」
よいしょよいしょと時限爆弾を運搬しながら、爆破により剥き出しになった車両連結部へと移動していくねね。
そして、仰向けに倒れている
「おーい
「ばっちおーけーだよぅ。ただ、膝の皿が割れちゃってるからまだ立ったり歩いたりできないけど」
「腕は大丈夫? 希望を言えば両腕って動かせれる?」
「うん! 骨にひびは入っているかもだけど大丈夫!」
「そっか。じゃあお願いがあるんだけど、これちょっと抱えてくれるかな」
「ぐぇっ!」
「離しちゃ駄目だからね。って、うわ、あと5分もないじゃん。カウントダウンめっちゃ早いし
「いやいやいや! もう爆発しちゃうのになんでそんな平常心でいられるの!? このままだと私たち3人共死んじゃうっていうか……あぁあぁどうしようどうしようどうし……」
「落ち着きなよお姉さん。今は無職だけどさ、
言いながらねねは、上着のポケットより
「それって風船、なの? なんでこのタイミングで――」
「ふぉんとふぁったら、ゆひゃいなまえふぉーぼぉーふきでひゃれるんひゃけど、いまふぁふぃふぁんがふぁいふぁらねー」
実に8つものペンシル・バルーンを口からぶら下げたねねは、後方に反る程に目一杯背筋を伸ばし、そして肺に蓄えた空気を一気に吹き込む。
「シュゥゥゥウーーーーーーーーーーッ!」
一度の息継ぎを挟まずに、全ての風船へと空気を吹き込むねね。
彼女の口から膝の辺りにまで膨らんだ各々を、握って、捩じって、曲げて、丸めていく。
「よっし出来た」
僅か1分も経たないうちに、円環に留まったオウムを象った作品が8つ、完成していた。
「
仰向けに倒れたままの
「あの。ごめん、あなたは何をするつもりなのかな?」
「ん、あぁごめんごめん。お姉さんの好きな色聞いてなかったね。残ってるのは黄緑に紫に水色に、あとオレンジ。どれがいいかな?」
「じゃ、じゃあ水色を――って、違くて! それが脱出と何の関係があるのって訊いているの!」
思わず声を荒げてしまう
「そっかお姉さん気絶してたからあたしの魔術が何だか知らないんだったね。んーとつまりね、この車両連結部から飛び出そうって
「???」
疑問符を浮かべながらも細かな理解を諦めた
そして程なくして、第一車両の最後部、爆破された車両連結部より三つの影が宙へと舞い上がっていったのだった。
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