第3話【limited express panic-ハンキュウジヘン-】(4)
最前列である第1車両に到着するも、その間ねねと
他の乗車客はおろか、先程5車両目で遭遇した
「これは……どうしたものだろう」
「あはははっ! みてみてねねちゃんっ! この人カニさんみたいっ!」
乗車エリアと区切られた運転座席の右側。
白目を剥き口から泡を吹き気を失っている運転手を見遣りながら、ねねは途方に暮れていた。
「念の為聞くけどさ。
「うぅん無理。でもやってみたいという気持ちでは誰にも負けないよ!」
「だよね……。というか知ってたとしても、この有り様じゃあどうしようもないよね」
速度を調整する
加えて、その左上に設置されている赤地に白で“緊急”と書かれたボタンも、ボコボコに破壊されている。
(徹底している。あたしたちをこれ以上進ませない――いや、ここで処理するという、明確な意思が表れている)
これでは運行速度を落とせず、車両停止も行えない。
(極めつけは……あぁもう。出来ればこんなもの、リアルで見たくなかった)
運転手が横たわっている反対、左側の空間にその物体はあった。
「うはぁ~~すごいすごいすごい! これってあれだよね? サスペンス映画やドラマでおなじみの、例のアレだよね??」
「否定したい気持ちでいっぱいだけど、そうっぽいね」
無骨なまでに黒光りする、鉄の
“いかにも”を通り越し“そのもの”。
中央に備え付けられたタイマーは赤く明滅し、内側へと複数の配線が伸びている。
これでもかという程に、それは時限爆弾であった。
「うわぁ……よく見たら残時間10分切ってるんだけど……はぁあマジか~……」
「激アツ演出だね! パチンカスならドヤ顔で離席してコーヒー&一服タイムだね!」
意味不明な喩えを出す
(脱出するのが困難な事は理解した。それは置いといて。肝心の魔術師は何処にも見当たらなかったんだが……?)
車両連結部に挟まっている可能性を加味し、第1車両への移動中、ねねは注意を払っていた。
(車両内に隠れる場所は存在しなかった筈。だとしたら車外か? いや……それも薄い)
今ねね達が乗っているのは阪急電車。
海外の列車と違い、車両上部と配電線との間隔は極めて狭く、感電死の
(となると……あっ、あった。一か所だけ確認していなかった場所が)
ねねが思い付いた瞬間を見計らったかのように。
ドンッッッ!
前触れなく鳴った爆音と共に、電車全体が大きく揺れた。
「うおっ!?」
「なななー???」
体勢を崩したねね達が振り返った後方――2車両目以降がどんどんと遠ざかっていくのが見えた。
加えて、十数人にも及ぶ
(先頭車両との連結部を爆破……!? これは……畜生、マズいぞ……!)
一手、どころか数手遅れたことにねねは心中にて舌打ちする。
自分たちが唯一確認していなかった、8車両目の運転席の中に魔術師が潜んでいたとしたら、これでもう追いかける事は出来ない。
既に取り返しの付かない事態に陥りながら、しかし劣勢は加速の一途を辿る。
『――→P↓↘→K――』
『――↓↑KK←→P――』
『――↙(溜め)↗PPP――』
前衛の三人が各々謎の言葉を呟きながら、手にしたボウガンを構え始めた。
「ッ!?
「おk。とりあえず全員動けなくしちゃえばいいん――だよね?」
ねねが具体的な指示を指示を出すよりも早く、
「あーっひゃっひゃっひゃっひゃ!
放たれた矢を
数秒後、車両後方部に
「たくさんいるのはさぁ! 数の暴力って感じでステキだけどぉ? 狭い電車の中だと逆に不利じゃんよねぇ!!」
動きの固まった敵に対し、額から矢を生やした
致命傷を負おうとも、気絶さえしなければ動き続ける事が可能で、且つ近接戦闘に特化した刃物の扱いに優れる
彼女がなんとか時間を稼いでいる間に劣勢を覆す打開策を考え出さなければならないとねねが思案していた、その矢先であった。
『――←↙↓↘→C→→P――』
地面に這いつくばっていた内の一人の
『――←→強P→――』
別のもう一方が、懐より取り出したバールを、彼女の
バキッ!!!
「わわっ!?」
関節を破壊された
それと同時に、後方に控えていた
『――(連打)PPPPP――』
『――(連打)KKKKK――』
『――(連打)PPPPP――』
『――(連打)KKKKK――』
各々が手にした凶器で以て彼女を滅多打ちにし始めた。
「ちょ、ちょっとタンマ! いたた、いたたたた、痛いってば、おいこら! やーめーろーってばー!」
通常痛いどころでは済まない打撲・骨折を受けている
(ふざけ……つーかお前――簡単に制圧され過ぎだろこの×××女……!!)
死の概念亡き存在ともいえども、けっして無敵ではない事実を目の当たりにしてしまったねね。
そんな彼女へと、ボウガンを構えた二人の
運転座席に隠れながら、ねねは思考を
(迎撃するにも私の魔術じゃあ二人同時に片付けるのは至難……)
ディアボロを用いずにゴムボールを二つ投擲するにせよ、微妙に立ち位置の違う二人の刺客を同じタイミングで仕留めるのは現実的でなかったし、ボウガンで反撃を受ければそれを止める手立てはない。
(かといってこのまま隠れたままでいてもやられてしまう……)
離れた距離を詰めれば詰めるだけ、ボウガンの矢の命中精度は上がっていく。
(ジリ貧さね……厄日か今日は! 何か、何か策はないの? こいつらを一気にまとめて止める――
諦めかけていたねねであったが、そこで彼女はふと思いついた。
(いや――あるにはある。たったひとつだけ)
(しかし確証が持てないというか……下手を打ってしまえば余計な被害を増やし、且つ無用な罪悪感を抱えたままやられてしまうことになるが……)
もはや目前に迫りつつある
(えぇい、んなこと言ってられる余裕なんて……今の、あたしには、無い!!)
「ねぇ
ねねはタコ殴りにされているパートナーへと声を張った。
「んぁ~どしたのねねちゃん??」
「あのさ! 仮にさ! 間違ったことをしちゃったらさ! それが割と酷い事だったとしても! 誠心誠意謝ればさ! きっと許してもらえるよね!?」
今この場面で何を言っているんだこの子はと
「あったりまえじゃん。なんならえーかも一緒にごめんなさいしてあげるから、ねねちゃんの思うようにやってみなよ」
「それ! それが聞きたかった! ありがとう!!!」
覚悟を決めてねねは動く。
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