第3話【limited express panic-ハンキュウジヘン-】(1)

「綺羅星チキチキ雑学クイズ第3問目~。今から私達が乗るこの電車の色は何色でしょうか?」



「はいはいはいはい! あずき色!! 余裕過ぎて口から胃袋が飛び出ちゃいそうだよ! サービス問題だねっ!」



「ぶっぶー不正解〜。正解はマルーン色でした。つーか口から胃袋とかカエルかよ。たとえが純粋に気持ち悪いよ」




 大阪府は阪急、梅田駅ホーム端にて。



 一見してどこにでもいそうな少女二人は、そのようなやり取りを行いながら最後尾車両へ乗車した。



「私はずっと起きてるつもりだけど念の為。終着の京都河原町かわらまち駅の一つ手前の烏丸からすま駅で降りるからね」



「わかったー。ちな、何分くらいで着くの?」



「そうだね、大体40分ぐらいかな。烏丸で降りた後は地下鉄に乗り換えて、まずは山科やましな駅まで行こう。そこからは徒歩だね」




 ねね達が向かおうとしている場所は、京都府と滋賀県のちょうど狭間にある比良山ひらさん



 ふもとから少し離れた場所に自宅兼骨董屋こっとうやを構えている元緑夜叉ろくやしゃ村の生き残り、刑部おさかべ牢庫ろうこを訪ねる事が目的である。



 当初、時間効率の兼ね合いからJRを用いる予定であったのだが、全線がストップする程の人身事故が発生し運行ダイヤが大きく乱れてしまった(早い話が運行再開の見込みがいつになるか不明)為に、別ルートである阪急沿線にてまずは京都へと向かう予定変更を余儀なくされたのであった。




「ガラガラだねー。私達以外に一人も乗ってないねー」



「平日の昼間ってのもあるんだろうけど。混んでるよりは空いている方が良いでしょ」



 深緑色のシートに腰を掛け、やっと一息つけたと言わんばかりに、ねねは軽い安堵の表情を浮かべながら、永渦へと相槌あいづちを打った。




 昨日と今日、彼女らはぶっ続けで他の魔術師との抗戦を行い、未だ命を落とさずなんとか生存できている。



 肉体的損傷はほぼ皆無ながら、しかし精神的な負担はそれなりに蓄積している感が否めない。



 これ以上不毛な消耗を強いられる前に、ひいては更なる新手の刺客と出くわす前に、一刻も早く刑部と合流する必要があると、ねねは考える。




 ちなみに対胃豆いとう戦後、ねねは刑部に電話をかけ、この二日間に起こったことを手短に且つつまびらかに説明していた。



「無事で安心したよ。ことは重なるもんで、ちょうど他の人達も私の所に集まる感じだし、早くおいでよ」



 電話口から聞こえてくる涼しげな声の持ち主である刑部が言う他の人達――要は緑夜叉村の生き残りを差しているのだろうなとねねは思った。



 刑部程の繋がりは持ち合わせておらず、関係性は希薄だとしても、ねねが見知った連中が集結するという事。



 敵ではなく味方となり得る魔術師が一同に伏すとは、なんとも心強いものだとも感じた。




「お待たせしました。1号線、快速急行、京都河原町行き、ただいま発車致します」



 駅構内に女性のアナウンスが流れ、ねねと永渦の乗った8両編成の電車の右側の扉が、一斉に閉まる。



 そしてマルーン色の電車はゆっくりと動き出した。



 終着駅へと辿り着くまでの間――たったの一度も停止をすること無く、大量の敵意と増大な悪意を載せながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る