第2話【food fight-タビマエノショウガイ-】(5)

 日付は変わって、翌日の午前11時半頃。



「ふぁ~めっちゃ寝ちゃった。ねねちゃんおはー」



 寝室より、欠伸まじりの永渦がようやく起きてきた。



「おはよう水汽みずき永渦えいかさん。朝食はパン派、それともご飯派?」



 ごりごりとすり鉢をすりながら、台所に立つねねは永渦へと尋ねた。



「んー。んん~、じゃあパンで」



「了解。ささっと目玉焼きも用意しちゃうから、先にサラダとパンから食べちゃって」



 斜めにスライスされたフランスパンと、アボガド・レタス・トマトをフレンチドレッシングでえた上にクルトンをまぶしたサラダが盛りつけられた食器を、慣れた調子でねねはテーブルへと運ぶ。



「そういえばさー。今日のけっとーっていつでどこだっけ?」



 出された朝食をむしゃむしゃと頬張ほおばりながら、永渦はねねへと尋ねた。



「13時に駅近にある高架下の公園。集合、午前中に設定してなくて良かったよ」



「ふぅん。えーかはもっと早くてもかまわなかったんだけどねー」



「もうお昼前なんだけど。いくらなんでも説得力が皆無だよ……」



「ままっ、気にしない気にしない。えーかとねねちゃんがタッグを組めば大抵の相手なら余裕っしょー」



「余裕ねぇ。どうやら相手はあたしの命を奪うつもりはないみたいな事を言ってたけど、それを差し引いても勝てるかどうかは微妙な気がするんだよなぁ」



「心配性さんだなぁ君は。えーかのナイフに仕留められない奴はいないし、てゆーか本気ガチればねねちゃんの魔術だって大概なもんじゃん。いっつもいっつも喰らってる身からすれば、かなりの脅威きょういだお~」



「待ち合わせ時刻を早めても大丈夫だったという点よりは、そっちの方が説得力あるね。てかさ。前々から不思議に思ってたのだけど、どうして貴方ってば急所を突かれても当たり前の様に生きてるのかな。確実に死んでもおかしくないような負傷をしても暫くしたらケロっと復活する。それが水汽永渦さんの魔術なの?」



「にひひっ。内緒~。それとごちそうさまでした。おいしかったよねねちゃん!」



「食べんの早っ。いえいえお粗末様でした。お風呂沸かしてるから入ってきなよ。その後出発しよう」



「おっけー。んじゃバスルーム借りるね~」



 ひらひらと手を振ってリビングを後にする永渦を見送りながら、ねねはまたはぐらかされてしまったなぁと溜息をついた。



(どういう原理なのかは未だ不明ながらあの子と、無機物に重さと速さを加えるあたしの魔術……。確かに何とかなるような気がしなくもない)



 至近距離より脳と心臓に銃撃を受けながら――しかし数秒後には覚醒し損傷前となんら変わらずに自意識を保ったまま行動が可能である、彼女。



 場合ケースとしては昨日の件はまだ可愛げのあるもので、過去ねねの機嫌がすこぶる悪い時に襲撃をかけた永渦は、重さ16ポンド(※約7.2キログラム)のボーリングの玉にて、文字通り首から上にある頭部を丸ごと粉砕される経験をしている。



 そんな目に遭っていながらも、ふと目を離した隙には血だまりでけらけらと笑って復活しているのが、水汽永渦なのだった。



 類稀なる不死性(厳密にこの表現が正しいのかは定かでない)を持つ彼女と共闘するのは、思えばこれが初になる。



 致命傷を受けようとも死なない――イコールで防御する必要性を持たずにひたすら攻め続ける事が出来る永渦がいれば、かなり心強く思える。



 だからと言って、慢心し足元をすくわれてはたまらない。



 ねねは再び作業へと復帰し、永渦が入浴を終えて全裸でリビングへと舞い戻ってくる頃には、全ての準備を整えていた。




 そして二人はねねの自宅を後にする。



 刺客たる胃豆が待ち構えている決闘の場へと赴く為に。

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