第1話【eleven years later-ジョウキョウサイカイ-】(8)

不要の節介プラスハマー胃豆いとうに、怠惰なる泡姫レイジィソープ蚊脛かけい。お嬢ちゃんの件に絡んでいるのはこの二人。他に関しては知らねぇ……信じてくれっ本当なんだ!」



 ねねがみっつ数えるスリーカウントを始める前に、膜間まくまは一気にまくし立てた。



(すぐさま暴露しゲロッちゃうあたり、仲間意識は希薄みたいね)



 多少なりとも黙秘を貫くかと思われたが、どうやらそれは杞憂だったとねねは拍子抜けする。



(苗字とは別に通名があるってことは、やはりというか当然この2名も魔術師なんだろうねぇ)



 不要の節介プラスハマー胃豆いとう



 怠惰なる泡姫レイジィソープ蚊脛かけい



 両者ともにねねの知らない人間である。



 それはイコールで、緑夜叉ろくやしゃ村の出身者では無い可能性が非常に高い。



 だからこそ、次にねねが欲した情報――訊いておくべき事項は、それら二人の扱う魔術の詳細についてであった。



「おじさん。その二人はどんな系統の魔術を使うのかな?」



 魔術の特性や特徴を事前に知っておけば、この先かなりの有利性アドバンテージを保持することが出来る。



 対応策を思案し、対抗策を準備することによって、ねねの生存率を大幅に引き上げる効果が見込まれる。



 だからこそ頭に浮かんだままの内容を、そのまま尋問相手である膜間へ訊いたねねだったのだが。




 結果のみを見れば、2つ目の質問事項は手痛い失敗へとなってしまった。




「全部が全部把握している訳じゃあないが……まず胃豆はめしを――がぼっ!」



 説明の途中、膜間の口が不自然な程大きく広く、縦長に開かれた。



 目に見える速度スピードで生長する植物が彼の身体の皮膚を突き破り、1分に満たずして等身大の小ぶりな樹木がその場に出現していた。



「…………」



「…………」



 絶句する二人の少女。



「水汽永渦さん。念のため確認だけど、なんかやった?」



「んーんやってないよ! ねねちゃんの手品かなぁーって思ったんだけど違うの?」



「流石のあたしでも人間を植物に変えたりは無理だよ」



 植物人間ならぬ人間が植物、である。



 恐らくは膜間自身に何らかの魔術が施されていて、発動条件トリガーを満たしたが故の魔術の発露アクションとみるのが妥当であろうか。



 たとえば仲間内の情報漏洩リーク、とか。



(結論を急ぎ過ぎた。もっと外堀から埋めていくべきだったね、大失敗)



 ぽんぽんと頭を叩き反省するねね。



 引き出せた情報は刺客の人数と名前のみ――成果を得たとは言い難いが、引き摺りっぱなしでも具合が悪いので、ここは切り替えてさっさと行動するべきだなと彼女は気持ちを新たにした。



「正当防衛っつっても加害者は人間じゃなくなってるし、状況だけ鑑みれば器物破損で全面的に非があるの、あたし以外にいないよねぇ……。はぁー、うーん、あー。まっ、いいか。時に水汽永渦さん」



「ん? なになに~?」



「おじさんと遊べてどうだった?」



「最初はじぇらしー感じちゃったけど、ねねちゃん以外と遊ぶの久々だったから楽しかったよ!」



「そっか。じゃあこれから先また別の人達がやってきたらさ、あたしのこと今回みたいに守ってくれる?」



「もろちんだよ! 他の人にねねちゃんられちゃうの、えーか全力で阻止するんだもん!」



「“ろ”と“ち”が逆だよ……。ともあれ、自宅に帰ってこれからの事、色々考えなきゃだよね。ちなみに水汽永渦さんはもう晩御飯食べた?」



「まだっ! おなかぺこぺこ!」



「よーし。それじゃあ助けてくれたお礼も兼ねて、綺羅星きらぼし特製アヒージョを振る舞ってしんぜよう」



「なにそれなにそれおいしそう! 無駄に女子力高そうな食べ物、たーのしみ~!」




 和気藹々とした雰囲気を醸し出しながら、二人の少女は主演場テントを後にする。




 そしてこの瞬間をもってして、絶え間なく来訪する魔術師達からの逃走劇が開始されたのであった。




[Flatman] changed Weird Tree!!


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