第1話【eleven years later-ジョウキョウサイカイ-】(6)
「……ぐっ……うぐっ……ごっ、ごべんなさっ……い……殺さないで……おじさんの言う事……ふぐっ……なんでも……聞くからぁ……」
四肢の自由を奪われたねねは、恥も
彼女の整った顔は今やしわくちゃに歪み、とめどなく漏れる
「もうひと
膜間は困惑する。
一瞬、演技ではないのだろうかという疑念が頭を
紛れも無い本音であると感じられた。
先般、ねねと対峙した際に彼は彼女の命を奪うという様な意図を直に伝えていたのだが、実際はそのような命令は彼の主からは受けていないし、膜間の最終的な目的は彼女自身の身柄拘束であって、この顛末に至ったのは結局、小生意気な少女を多少なりとも怖がらせてやろうという意地の悪い考えが働いたからに他ならない。
しかしねねは彼の行き過ぎた悪ふざけ--
ならばその勘違いを正すのは
「号泣したり助けを呼ぶべく叫ばなかったのは、
羽織ったスーツを脱ぎ、ズボンのベルトの金具をゆったりと外しにかかる膜間。
「私の言うことを何でも聞くといいましたね。ディアレディ。なぁに、私もそこまで鬼ではありませんから、要は
「ぐすっ……ひっぐ……あの、今なんて……?」
「? 何がです」
「確認したいの......今おじさんが言った事を......もう一度」
「ですから、言うことを聞くのだと言うのであれば」
「違うわバカ。その前だよボケ。
カチャカチャとベルトのバックルを
「……どうやら、まだ貴方は。自分が置かれた立場というものを、分かっていないらしい。事穏便に済まそうと思っていたのに、その態度には感心出来ませんね」
絶対窮地に立たされた死に体のねねより浴びせられた挑発に対し、口調こそ未だ穏やかなものの、膜間のこめかみには青筋が浮かび上がり、ぴくぴくと脈打っていた。
「今一度繰り返しましょう。ここには何人たりとも来れない様な仕掛けを、人払いの術式を辺りに施しているのです。貴方が泣こうが叫ぼうが、ピンチを救う都合の良い助っ人が馳せ参じる事は、絶無に皆無だと言ったんですよ」
「ふーん」
「なぁオイ嬢ちゃんよ。余裕かまして達観ぶって……満足か? してやったりって感じか? 思いあがるのは勝手だが、コケにするのも大概にしとけよ。そっちがそんな態度ならこっちもこっちで大人の怖さってものを存分に――「別にさぁ」あん?」
直接的な暴力を振るいかねない、かなり際どくも危うい心理状態にまで
「別にあたしは達観している訳でもないし、余裕なんて小指の甘皮程も持ち合わせちゃあいない。ついさっきまではね――おじさんが言う“人払い”の話を聞くまでは、だけども」
「…………」
「実際、便利だよねアレ。だって大して魔力を消費しないし、才能の有無にかかわらず式さえ組んじゃえば魔術師であれば誰でも使えちゃう優れモノ。その及ぼす効果の常に内側である、
「でもさぁ。何事にも例外は必然的に存在する訳で、魔術に適応のある存在や魔術師自身には、その効果を及ぼさないってのはご存じ? それが原因で10年以上前にあたしの故郷が滅ぶ原因になっちゃったのは、ある意味出来過ぎた伏線回収ってなことを勘ぐっちゃうよねぇ」
「話が見えねぇよ。それが
「いやいや、違くて。いくらなんでもこんな状況じゃあ、あたしに勝ち目が無いのはちゃんと理解してるよ。両手両足を封じられて、詠唱しようにも口を塞がれちゃえばそこまでだし、おじさんの
「なら結局何が言いてぇんだ」
「あははっ。
「安い
しかし膜間が振り返った先には。
「ねねちゃんをいじめる奴はお前か」
顔面を真っ赤に染めた、斑模様の白いワンピースを着た少女が出現していた。
「なっ――!? 誰だてめぇ!」
ぎょっとして身を固める膜間へと正体不明の少女は床を滑る様に距離を詰め、後ろ手に隠していた
「さっさと死んじゃえ。このげすやろう」
どんっ、とぶつかる音がした後。
地鳴りを連想させるかのような野太い男の絶叫が、
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