第4章 不良の誇り

 防戦一方。



優子達は終始流れ込んでくる冥府軍を食い止めていた。



虎白と竹子は瀕死の重傷になりながらもミカエル兵団の到着まで12死徒を止め続けた。



ライノ達補充兵は揺らいでいた。



無駄死しにはしたくないがここで戦わないと誇りが廃れる。




「あいつら・・・この少数の兵力で全く怯まない。 俺達の加勢なんて求めていない。」




ミカエル兵団の手当を受けた虎白と竹子はライノ達を見る事もなく前線に戻っていった。



懸命に敵を食い止めている。



しかもライノ達補充兵を守る陣形のまま。




「ああ。 そうかよ。 俺達は別にいてもいなくてもいいってわけかよ。」

「ねえどうするの? あの人達まだ戦ってるよ。 敵の第二陣が来るって話していたよ。」




近くの補充兵がライノに言う。




「俺は隊長じゃねえんだ。 俺に聞くな。」

「でもあんたが一番強いんだし。 隊長の狐さんの命令無視したのあんたが最初じゃん。」

「チッ。 やってやるよ・・・てめら!! 死んでも文句言うなよ?」

「言わないよ。 きっとこのまま傍観していた方が文句言うね!」




ライノはため息を付いて前を見る。



懸命に戦う虎白と兵士達。



一歩前に出て振り向き補充兵達を見る。




「あいつらは俺達の協力なんて求めてねえ。 最後まで動かないと思っている。 だったら驚かしてやろうぜ。 いきなり背後から流れ込んでやろうぜ!! こいつらを万が一死なせて俺達だけ生き残ったらまた恥知らずとか言われちまうぞ? 行くぜっ!!!」




そして補充兵達はそれぞれの武器を持って静かに歩んでいった。
















虎白達は持ちこたえていたが苦戦していた。





その時。





「く、鞍馬様・・・あれを。」

「ふっ。 やっと動いたか。」

「おらああああ!!!!! ぶっ殺してやるよ冥府軍!!!」




それは兵士と言える戦い方ではなかった。



まるで不良。



喧嘩でもしているかの様に荒々しく滅茶苦茶な戦い方だった。



鉄の棒で殴りかかる者。



2丁拳銃を乱射する者。



倒れる冥府兵を踏みつけて叫ぶ者。



しかし彼らの誇りは戦うと言う強い信念となって形となった。



この勇気ある不良の加勢で虎白達が勢いを取り戻した事も事実。



そして敵の第二陣が到着する前に冥府軍には撤退の合図が出た。




「ふっ。 やっと動いたか荒くれ者共め。」




平蔵はライノ達を見て微笑む。




「な、なんとか生き延びた・・・」




太吉は息を荒くして平蔵の隣に立つ。




「やるじゃねえか。」




そこにライノが来る。




「それはこちらのセリフだ。 野盗にも匹敵する貴様らがまさか戦いに加わるとはな。」

「へっ。 言ってくれるな。 俺達は盗賊だったやつもいるし海賊もマフィアもなんだっている。 だがそれは「第1の人生」の話だ。」

「我らは侍だ。」



ライノは目を見開いて平蔵達を見る。




「侍か。 聞いた事がある。 戦場で死ぬ事を誉れとしてどんな強敵にも立ち向かうとか。」

「はは。 どうであろうかな。」




平蔵は頭をかいて太吉を見る。




「・・・・・」

「てめえだけは赤い鎧兜をしているってのは一番強いんだな。」

「ほらこれじゃ。 だから嫌なんじゃ。 なあ平蔵頼む。 幕府軍の甲冑をくれぬか?」




太吉はライノから目を背ける。




「なんだよ情けねえ奴だな。 まあいい。 これからは共に戦うぜ。 狐の実力もてめえらの勇気も良くわかった。」

「左様か。 ではよしなにな。」




スッとライノが手を平蔵の元へ出す。



平蔵は不思議そうな顔をして丁寧に一礼する。




虎白とその仲間の壮絶な初陣だった。



そしてライノや平蔵達は虎白が居城とした荒れ地に戻り片付けの続きを行った。




「おめえさんが使う武器はなんだい?」




平蔵はライノの武器を見て問いかける。




「ああ? これか? 狙撃銃さ。 このスコープから覗くと遠くの敵が見えるってわけよ。」

「ほう。 これは便利じゃな。」

「まあ。 近くに敵が来た時はこのリボルバーをぶっ放す。」




ライノは背中に狙撃銃を背負い腰にはリボルバーの拳銃を装備していた。




「てめえらの刀ってのも見せてくれよ。」




平蔵は刀を抜いてライノに見せる。




「こりゃすげえ・・・丈夫で切れ味もとんでもねえ。 てめえらの世界では全兵士がこんな立派なもんを持ってるのか?」

「ま、まあな。 しかし刀にも質がある。 あの鞍馬様が持っている刀や竹子様の刀。 あれは我らの刀とは質がまるで違う。」




日本刀に興味津々のライノは目を輝かせて平蔵に話す。



「な、なあ!! その鎧もよー。 頑丈なのか?」

「ま、まあ鎧だからな。」

「殴ってもいいか?」

「構わんぞ。」




ライノは平蔵の腹部を殴る。



ボン!!



「いってええええええ!!!!!! 大したもんだぜ!!! てめえらは気に入った!!!!」




戦闘から数日が経ち、城の修復も順調に進んでいた。



ライノはすっかり平蔵達と打ち解けて多くを語り合った。



1日の修復が終わり夜になると見張りの歩哨以外は酒を飲んで朝まで語り合ったりしていた。




「この天上酒(てんじょうしゅ)はなんと美味か!!」




平蔵は目を見開いて初めて飲む天上酒を飲む。




「はっはっは!! そうかてめえは天上酒飲んだ事ねえのか。」

「初だ。 これは良いなあ。 ほれ太吉も飲まぬか!」

「確かにうめえ・・・でもこりゃ飲み過ぎちまう。 酔っ払ってる間に敵が来たら戦えねえ・・・」




こんな時でも消極的な太吉にライノが眉をしかめる。




「侍って言ってもてめえみたいな臆病者もいるんだな。」

「なんとでも言え。 わしはとにかく死にとうない・・・」

「ライノ許せ。 こやつは下界で友を失った。」

「そっか。 悪い。」




しかし太吉はジッとライノの顔を見てぶつぶつと話す。




「いや。 わしは理解できなかった。 与平は主を守るために身代わりになって死んだ。 真作は危険な下界に主が残るからって残った。 わしにはわからない・・・人のためにそこまでできるのが・・・」




ライノは酒をぐっと飲んだ。




「まあ。 てめえの気持ちもわかる。 でもよー。 そいつらはてめえさんの信念に従ったんだな。 立派じゃねえか。」




太吉はうつむいて何も言わない。




「てめえの信念が「死なない事」ならそれでいいじゃねえか。 どう生きて行くかはそれぞれって事だな。」

「わしを恥知らずとは言わんのか?」




ライノは太吉の問いに顔を背けて楽しそうに酒を飲む補充兵の女性兵士の胸元を見つめる。




「女っていいよなー。 俺は女を抱いていたいから死ぬ気はねえ。 ガチで言えばそれだけだ。 恥とかどうでもいいだろ。 てめえの仲で決めた事を貫くのが一番いいのさ。」




太吉は酒を少しすすり女性兵士の方を見る。




「それぞれの信念か。」

「そういうこったよ。 それが「死にたくねえ」でも「女を抱きてえ」でも何でもいいのさ。 中途半端に生きるより人にどう思われようと気にしないで貫くんだよ。 それが男だろ。」




平蔵が天上界の夜空を見てつぶやく。




「されど武士たるもの味方のために命をかけるのも当然だ。」




太吉は顔をしかめて黙り込む。




「共に鍛錬した友。 命を守り合う友。 そして共に死する友。」

「何いってんだてめえ。」



ライノは不思議そうに平蔵を見る。




「それが武士だ。 鍛錬してきたからこそ。 強敵に破れて死する事を最高の誉れと心得る。 後悔ないほどの過酷な鍛錬をしてきたのだ。 自分は負けないと思っている。 もし自分に勝てる者が敵にいるのならばそれは自分の想像もできない鍛錬をしてきた猛者。」




平蔵は淡々と話す。




「それが侍の心得ってのか?」

「武士道。」

「はっはっは!! 気に入ったぜ。 本当にてめえら侍ってのは面白え。」

「主への忠義こそ武士の鑑。」

「へー。」




ライノは関心して自分の狙撃銃を見つめる。




「その主に見捨てられたとは思わないのか?」

「それは主にとってその程度の男だったのだ。」

「とんでもねえ自己犠牲の精神だな。」

「それこそ武士道。」




その間も太吉は一切言葉を発さなかった。




音に聞こえし赤備え。



精鋭中の精鋭の太吉だったが人のために死ぬ事だけは理解できなかった。



太吉にとって戦いは生きる術であって誰かのために戦った事は一度もなかった。




そして夜が明けて。




「今日から一つの組織としてやっていこうぜ。」




ライノは幕府軍、新政府軍、補充兵を一つの組織にしようと試みた。



その第一歩として補充兵が城の修復を積極的に手伝った。



今までは幕府軍、新政府軍に分かれて5人組で作業を行っていた。



交代交代で敵の見張りも行い効率的に作業を続けた。



その5人組に追加で3人の補充兵が加わる。




「邪魔をするでない。 それはそっちじゃ。」

「ああ。」

「なんだその目は。 気に入らぬのなら向こうへいけ。」




当然簡単にはいかず、幕府軍も新政府軍も補充兵に友好的ではなかった。



主の虎白とその側近の竹子に罵声を浴びせ、戦闘でも高みの見物をしていた補充兵を受け入れるのは難しい。




険悪の空気の中、作業は続く。




「あーあ。 魔呂はマジでヤバかったな。」

「うん。 でも第六感使える様になったね!」

「お前は天才なんだよ竹子。」




虎白と竹子が城から出てくる。




「おお。 朝からご苦労様。」

「鞍馬様!!」




ザッ。




幕府軍、新政府軍共に虎白を見るなり整列して一礼する。




ライノ達は呆気にとられる。




「はい。 おはよう。 じゃあみんなさっさと修復しような。」

『ははっ!!』




立ち尽くすライノ達に竹子が寄ってくる。




「おはようございます。 気持ちのいい朝ですね。 さあ。 一緒に作業しましょう。 あ、でも嫌ならいいんですよ? ほら。 昨日の冥府の侵攻大変だったし。 疲れていたら休んでいてくださいね?」




竹子は下唇を噛みながら上目遣いでライノ達を見る。




「か、かわいい・・・」

「えっ!? いや。 そんな。 恥ずかしい。 でもどうか元気な方がいらっしゃいましたらお手伝いしてくださいね?」




竹子はペコリと会釈すると虎白の隣で兵士達と作業を行った。



「よーし。 やるか!」



立ち尽くす補充兵の中からライノが真っ先に動いて周囲の者も作業へ向かった。



少しずつ溶け込もうとしている天上界の不良達。



ライノ。



生前は傭兵として各地を転々としていた。



金次第で何でもする。



彼の得意は狙撃だった。



静かに狙いすまされた一発で確実に仕事をする。



その放った銃弾の先で倒れる者が誰かなんて興味はない。



金をもらったから撃った。



ライノの人生で仲間と歩む事はなかった。



誰かを殺して得た金で女を抱く。



抱いた女でも殺せと金を渡されたら躊躇なく殺す。



自分の類まれない狙撃の腕はこのためにしか役に立たない。



虚しくも誇らしく思っていた。



そんな人生。



彼はそれでも心の何処かで「仲間」に憧れていた。



共に戦い共に喜びを分かち合い、時には共に死ぬ。



孤高のスナイパーは密かに憧れ続けていた。



そして今。



ライノはそんな憧れが実現しつつある。



全く知らない世界の全く理解できない文化。



主のために死ぬ事を誉れと思い鍛錬する。



常に誰かのために行動してどんな物にも敬意を払う。



朝目が覚めると直ぐに動き出して刀を振るう。



目を合わせて一礼する。



勇ましく鍛錬していると思いきや座り込み目を閉じて動かない。



そしていついかなる時も戦いに思いを馳せて妥協をしない。



常に厳しく己を磨き上げる。



それは自己満足ではなく主に必要とされるため。



主を守るためなら命すらも惜しくない。



これはエゴではなく誉れ。



美しい自分を演じるのではなくそれこそが全て。



侍。




ライノは終始驚かされた。



「こいつらはイカれてやがる。 でも本物の男だ。」




監視塔の上から鍛錬する侍を見下ろす。




「俺はそんな侍と仲間になりてえ。 理解できるか知らねえけど武士道とやらも気になる。」




ライノの中で少しずつ何かが変わり始めていた。




「俺は太吉の意見を良く理解できる。 実際そうだった。 戦いは自分が飯食って酒飲んで女を抱くため以外になかった。 誰かのためなんてあり得なかった。」




1人真紅の甲冑に身を包む太吉を見下ろして鼻で笑う。




「精鋭だの何だのって言われても嫌だよな。 てめえさんは自分を守るためにその赤い侍になったんだろ。 理解できるぜ。 でもきっと平蔵の考え方の方が「軍隊」に向いてる。」




監視塔から天上界の美しい平原を見渡す。




そして補充兵の隊長を決める選考を虎白が行うと言い、ライノも監視塔を降りて集まった。




「なんだあいつ?」




ライノの視線の先には虎白に良く似た狐の半獣族が虎白と親しげに話している。




「おー莉久じゃないかー!!」




オレンジ色の毛先に綺麗な顔立ちで性別を見た目で区別するのが難しい中性的な見た目。




「僕もこれからは虎白様と一緒にいますね!!!」




自分を「僕」と言う男性と思われる狐の名は莉久。




「あんなやつ補充兵にいたっけな。」

「昨日辺りにシレッと兵舎に入って来たんだよねー」




狼の半獣族がライノに言う。




「へー。 鞍馬様の知り合いなんだな。」

「昔部下だったんだってー」




そしてライノ達は二人一組に分けられて勝ち抜き戦を行った。



順調に勝ち上がったライノ。



最後の相手は莉久だった。



ジッと莉久を睨む。



しかし莉久は目を合わせる事なく2本の刀を抜いた。



少し口角の上がる莉久。



ライノは腹を立てていた。




(昔の知り合いだか知らねえが。 コネで隊長面されると気分悪いぜ。)




しかし莉久の強さは桁違いだった。




ライノの銃弾が何処に飛んでくるかわかっている様にスッスッっと避けてライノを瞬く間に倒した。



悔しさとあまりの強さにライノは声が出なかった。



振り絞る様にライノは言った。




「俺の負けだ。」




そして莉久は補充兵の隊長になった。




莉久はライノを倒しても喜ぶ事もなく虎白の元へ行き、頭をなでられていた。




そして数日後。




バババーン!!!!




ライノは監視塔から射撃をして直ぐに降りてきた。




「結構な数が攻めてきてるぞ。」




虎白達に休む暇を与えずに冥府軍が攻めてきた。




ミカエル兵団の協力により敵の第1陣を撃退すると急いで態勢を立て直して第2陣に備えた。



ライノは監視塔に再び登り敵を確認する。





「あいつ・・・この間の。 12死徒か。」





小さな着物姿の少女。



不気味に微笑む。



ライノは狙撃銃を構える。



スコープで見つめる。



瞳は真っ赤になり次の瞬間。





ガッシャーン!!!!




「うわあああああ!!!!」





何が起きたかわからなかった。


この12死徒といい莉久といい。


化け物だらけなんだよ。


この世界は。


俺はそんな世界でも強くあろうと思った。


平蔵や太吉に出会って。


俺の中で誰かのために戦う意味を見出し始めていた。


だから危険な監視塔にも積極的に登った。


その結果がこれかよ。


ずいぶんあっさりだな。


これで終わりかよ。


やっぱり自分の事だけ考えていればよかったな。


じゃあな。


平蔵。 


太吉。





ライノは即死だった。



崩れる監視塔と共に。



ライノの屍と瓦礫の上には12死徒「魔呂」が微笑む。



その後、虎白達の奮戦でなんとか12死徒魔呂を撃退した。



ライノの死は平蔵、太吉や補充兵に大きな衝撃を与えた。



しかしそれでも天上界の戦いは終わらない。




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