第3章 天の荒くれ者

壮絶な戦いを生き延びた太吉と健作。



所属は違えど共に下界の死闘を生き延びた2人。



鞍馬虎白に付き従い1000人の兵士は天上界へと向かった。



最初に向かった先は「天上軍最強」と言われる天使の総帥が治める土地。



ミカエル兵団本部都市。



太吉達1000人の兵士は都市の入り口の門で待機させられて虎白達は中へ入っていく。



純白の壮大な城。



呆気にとられる太吉。




「またとんでもない所へ来てしまった。」




周囲にはミカエル兵団が並んでいる。



誰を見ても美女しかいない。




「獣の耳が生えておる。 狐様の様じゃ。」




太吉は初めて見る半獣族に見惚れる。




「おい!! 赤備えの御仁。」




周囲を見渡す太吉に声をかける。




「貴様は赤備えを見限り我らと共に天上界に来て恥とは思わんのか? 仲間は皆下界に残ったのであろう?」

「へえ・・・」




太吉に声をかける者は幕府軍の兵士。




「これ。 止めぬか。 この御仁もそれなりに何か信念があってこちらに来たのだ。」




怒る幕府軍をなだめる別の幕府軍。




「これは申し遅れた。 拙者は平蔵(へいぞう)と申す。」

「へえ。 太吉と申します。」




太吉は常に消極的で人と目を合わせて話さない。



平蔵は頭をかいて太吉を見る。




「我らの中で唯一赤い甲冑を身に着けておる。 目立つゆえに声をかけられる事も多かろう。」

「嫌じゃな・・・敵に狙われてしまう・・・」




平蔵は隣の仲間と目を合わせて首をかしげる。




しばらくすると虎白達が出てきて移動を開始した。




着いた場所は荒野に等しい荒れ果てた土地。



少し前まで戦いがあった様な場所。



そこで汚れた着物姿で周囲の瓦礫などを片付ける美女がいる。



ミカエル兵団6番隊天使長の甲斐だ。



太吉達も片付けに加わり領地の設営を急いだ。



甲斐は虎白を見るなり抱きつきに行くがスッと虎白に避けられている。



そしてしばらくすると2000人の兵士が到着する。




「な、なんじゃあれは・・・」




太吉は驚く。




「これは。 まるで野盗じゃ。」




平蔵も太吉と隣で驚く。




到着した2000人の兵士は虎白の新たな兵士。




天上界の本部で未配備のままだった兵士。




「未配備」と言う事は何かしらの問題があると言う事。



虎白に渡されたこの兵士達は兵士と言うよりは「賊」だった。




酒を飲みながら歩く者。



葉巻を咥えている者。



人斬りナイフの様に周囲の者を睨みつけている者。



荒くれ者だ。



気性の荒さから誰にも受け入れてもらえなかった。



虎白は彼らを押し付けられた。




「こんな奴らが新たな味方か・・・」




太吉は肩を落とす。



しかし虎白は気にする事もなく飄々(ひょうひょう)としている。




そして2000人の補充兵も片付けに加わる。




「おいどけてめえ。 俺がここに座る。 その瓦礫はてめえが運べ。」




太吉と平蔵の元に1人の兵士が来るなり片付けている瓦礫の上に座りタバコに火を付ける。




「お初に拙者は平蔵と申す。」

「ライノだ。 てめえら俺の言う事を聞いて仕事しろ。」

「これは。 同じ兵士ではありませぬか。 共に作業致しましょう。」




ライノと名乗る荒くれ者の兵士は平蔵と太吉を噛み殺す様な目で睨みつける。



太吉は慌てて目をそらして作業を続ける。



平蔵はジッとライノの顔を見る。



「何だてめえ?」

「共に作業致しましょう。」

「ああ? てめえ俺の言っている事がわからねえのか?」

「わかりませぬ。 兵士なのですから。 貴公が鞍馬様の様な大将であるならば話は別ですが。」




ライノがチラッと虎白の方を見る。



甲斐と共に泥だらけになって片付けを行っていた。




「ちなみにあの鞍馬様は神族ですぞ。」

「チッ。 仕方ねーな。 さっさとやるぞ。 ボサッと突っ立ってるんじゃねえ。」




ライノはタバコを地面に投げつけて作業を始めた。



主の虎白が作業しているのに自分がサボるわけに行かない。



そう判断できたのか。



平蔵は少し口角を上げて作業を続けた。





そんな時。




「敵襲ー!!!!!」



それは突然の声だった。





天上界には敵がいる。



それは冥府。



生前を終えた者は天上界か冥府に行く。



そして冥府に行った者は強い「邪気」を放って天上界に攻め込んでくる。





慌てふためく補充兵。



武器を取り戦闘に備える虎白の1000人の兵士。



すると甲斐と役5000人のミカエル兵団6番隊が突撃を開始した。



その突撃の速度。



厳三郎達の騎馬隊を遥かに上回る練度。



それを一番痛感したのは太吉だった。




「な、なんと・・・あの速度で行くのか・・・騎馬が保たないぞ・・・」




口を開けて見ている太吉。



バババーン!!!



冥府軍の一斉射撃。




「な、なんと・・・」




太吉は空いた口が塞がらない。




冥府軍の一斉射撃で倒れた騎兵は1人もいなかった。



速度も緩む事なく。



自身の武器をプロペラの様に回転させて弾丸を弾く。



馬達も鉄の鎧を身に着けているかの様に効いていない。




「どっけええええええええ!!!!!!!!!!」

「おおおおおおおお!!!!!!!!!!」




美女達の透き通る美しい声が戦場に響く。



その美しい声には似合わないほど勇ましく敵に向かっていく。



ホコリの様に吹き飛んでいく冥府軍。




これがミカエル兵団。



その実力に飲まれる太吉達1000人の兵士。



そして虎白が方円陣展開の指示を出す。




「偉そうに指示出してんじゃねーよ!!!!」





虎白へ罵声を浴びせる補充兵達。




「小隊構えろ!!」




新政府軍が補充兵に構える。




すると虎白が歩いてくる。




「お前ら我慢しろ。 俺を思ってくれるのは嬉しいけど、あいつらの気持ちもわかってやれ。 お前らは同じ下界から来て俺の事も神話で聞いてるから直ぐに力になってくれたけど、連中は別の下界から来て、長らく本部で未配備にされてたんだよ。」




落ち着いた表情で淡々と話す虎白は怒る新政府軍をなだめていた。



今にも襲いかかりそうな殺伐とした空気。



それでも虎白に焦る様子はなかった。





「長い事ほったらかされていきなり俺に「忠誠を誓え」って言われても嫌に決まってるさ。 気づいてあげられなかった俺が馬鹿だった。 だからみんな済まない。」




それどころか、虎白は自分から頭を下げて荒くれ者共に謝罪をした。



驚き言葉が出ないのは新政府軍も荒くれ者も同じだった。



頭を上げると虎白は新政府軍達に向かって話を始めた。




「たったの1000人だけど一緒に戦ってくれ! 厳三郎や土屋の騎馬隊がいないけど、あのじじいなんかより美人で強い、天使長が一緒に戦ってくれてるからな! 性格は何か似てる気がするけどな・・・」



その虎白の言葉は太吉達を安心させて、勇気付けた。



そうだ。


下界で共に戦った。


今回だって我々で戦える。


虎白様を信じて戦う。


目の前で女性だけで戦っている。


なのに我々が戦えないなんて。


どうして男に生まれた。


どうして兵士になったんだ。


戦うためだろう。





兵士達は笑う。



前を見ると尻尾をフリフリさせてハニカム虎白。



その先で戦うミカエル兵団。



腹の底から力が湧き上がってきた。



『おおおおおおおお!!!!!!!!!!』



甲斐の騎馬隊から逃れて虎白達の元へ迫る冥府軍。



虎白と竹子は敵と戦う。



兵士もそれに続く。



数は少ないが甲斐の騎馬隊の猛攻を何とか生き延びた冥府兵は弱く、太吉達は確実に討ち取っていった。



「わしら天上界でも戦えるの。」



太吉が平蔵に言う。



「何を。 こやつらは敗走同然の兵士。 あの女性騎馬隊あっての事。」



しかし太吉の言う通り敵が弱っていようが戦えた事は確かだった。



そんな時。



太吉達の体には鳥肌がたった。



そして全身の血が冷たくなり臓器を握る潰される様な感覚があった。



「それ」はゆっくりとこちらに歩いてきていた。



12歳ほどの少女。



真っ赤な瞳に異様に長い刀。



幼い顔立ちに白くて綺麗な肌。



美しい黒髪は天上界の風になびく。




太吉達は呆気にとられる。




「な、何奴じゃ。」




不気味に微笑む「それ」に虎白と竹子が挑む。




「みんなは敵の兵士に集中してねー!!1」




優子が兵士の指揮を執る。




そんな危険な者なのか。


少女相手に虎白様と竹子様が2人で。


へうげものじゃあるまいし。


それに竹子様はたった1人で上級悪魔を討ち取った。


なのにあの少女に2人で。


いや。


とにかく眼前の敵に集中せねば。




平蔵は不思議に思ったが考える事を止めて刀を握った。





その時。





虎白が吹き飛んだ。




「!!!!!!!!」




平蔵だけでなく太吉や周囲の兵士達は驚愕した。



あの幼い体で虎白を吹き飛ばした事に理解ができなかった。



ここで太吉や平蔵達兵士の困惑が頂点に達する。




そもそも何だ。


女達の騎馬隊や。


銃弾を体で受け止めたり。


あの少女の様に素早く動いたり。


この天上界とは我らの考えの及ばない事が起きている。




天上界には「力」がある。



五感。



それは人間が基本的に持っている力。



見たり聞いたりする生きる事で当たり前の力。



天上界ではその上の力。



「第六感」がある。



それは周囲の物の気配を感じ取ったり自身の肉体を硬質化したりする事ができる。



そして更にその上の力。



「第七感」



自身の動きを速める。



そして第六感の延長線の力。



銃弾が飛んできたり自身の身に危険が及べば無意識にそれを回避する。



この常軌を逸した力を操るには「神通力」が必要とされる。



天上界では精神力や体力ではなくこの神通力が力の源になっている。




神通力の高い虎白や竹子。



神通力が高くない兵士達。



ここで力の差は生まれる。



しかし神通力は成長する。



多くの経験を重ねるに連れて神通力は強くなり多くの事ができる。



この「力」の法則は冥府にもある。



それは邪気から作られる「魔力」。



これは神通力よりも強力だった。



虎白に襲いかかる「それ」は虎白と竹子2人分の神通力よりも1人の魔力で勝っていた。





呆気にとられる兵士達へ容赦なく冥府兵は襲いかかる。



優子が必死に戦い新政府軍の兵士達が次々に戦う。




「お嬢を守るぞ!!」




健作は亡き友の信吉の想いを背負い優子のそばに付いて戦う。




「みんな頑張るよー!!」




敗走兵とは言え2万から構成される冥府軍は何百と優子達に襲いかかってきた。



しかしその状況においてもライノ達補充兵は動かない。



まるで他人事の様に。




ライノは「それ」にこてんぱんにやられる虎白と竹子を見る。




「ありゃ12死徒だ。」




12死徒。



冥府の中でも最強の呼び声が高い12人の戦士。



その1人がまさに目の前にいる。



ライノには疑問があった。




どうしてだ。


天上界に来ていきなり12死徒なんぞに狙われる。


そんな大物なのか狐さんよ。


なんか相当やばい事に巻き込まれてるんじゃねえだろうな。


ありえないぜ。


12死徒はミカエル兵団の天使長が相手をするもんだろ。


狐と女じゃ勝てるわけがねえ。


無駄死にはごめんだぜ。




ライノはタバコに火を付ける。



その周りにいる2000人の補充兵も動かない。



しかし何かが変わってきている。



12死徒に殺されそうな虎白と竹子。



その状況において何故か12死徒はとどめを刺さない。



そして何より虎白が徐々に12死徒の動きを見切り始めている。



戦況を傍観しているライノには良くわかっていた。



前線でたったの1000人で冥府軍を食い止めている兵士も士気が全く下がらない。



傍観していた補充兵の中から少しずつ声が出る。




「俺達は何してるんだ。」

「あいつら勇敢に戦ってるぜ。」

「12死徒を前に狐も女も果敢に挑んでいる。」




ライノは黙って聞いている。




確かにな。


早々に全滅か総崩れだと思っていた。


ここまで踏ん張れるとは思っていなかった。


だが不利な事に変わりはない。


こんな事で無駄死には御免だ。


どうする。


補充兵のこいつらの中には今戦わないのは「情けない」事だとか思ってる奴らが出始めた。


加勢するべきか。


でも指揮官なんていねえぞ。


誰が最初に行くんだ。


狐に恩なんてねえぞ。




しかしミカエル兵団の1番隊ジャンヌ・ダルクの到着により12死徒は撤退した。



終始傍観を続けた補充兵。



12死徒は撤退したもののまだ冥府軍は優子達に襲いかかってきていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る