閑話2 トウキョウドームと呼ばれた地で

時間は既に昼過ぎ、珍しく分厚い雲の裂け目から日が差して来た眩しさに獅子王ハヤトは目を覚ました。

雨水を希釈した水で顔を洗った俺はスリッパへつま先を突っ込むとそのまま階下へと降りていく。


ここは俺がドーム内で割りあてられた事務所兼自宅兼ゼロムキャリアーの格納庫だ。


最初、アームズ共の尖兵となってトウキョウ・ドームを襲撃した俺は当然の如く忌避・差別される対象であった、幸いだったのは人間としての姿を知る者は・・・此処を宛てがってくれた恩人たるおやっさん、一階で紅茶サロン【アミーゴ】なる店を営む矢矧やはぎトウベエその人くらいである。


「よう、今起きたかハヤト。」

「おやっさん、また紅茶か?」


この世界では絶滅したに等しい食材、茶葉。

それをわざわざ古い文献から調べあげ、バイオプリンターで再現して栽培。それらを根気よくやった上で葉っぱや若芽を発酵・乾燥させたものを今度は温めた専用のポットにて熱湯に晒し、茶こしと呼ばれる専用の針金を編んだようなカゴでわざわざ茶葉を濾しとって残った赤茶けた香りだかい液体を飲ませるのだ。おやっさんはそれを【ストレートティー】と呼んでいる。

初めはその苦さに辟易したものだが今じゃ少量のグラニュー糖とミルクとかいうこれまたバイオプリンターで再現した、特に赤子が幼少期に栄養を摂るための白濁した乳を入れて飲む。これはそのままでは飲みにくそうにしていた俺に【ロイヤルミルクティー】だとおやっさんが勧めてくれたものだ。

それがお気に入りであった、糖分は脳細胞を回すのに必要不可欠だからな。


「金持ちの道楽だな。」

「インや、元、金持ちの道楽さ。」


クックックと笑う彼はもともとドームの施政者ではあったが今じゃ引退し、小さな店の主に納まっているらしい。

俺はそんなおやっさんに拾われ、『ナノマシンとやらの研究なら俺んちの二階でやればいい、なんなら住んだってかまやしねぇさ』とこの暮らしをしながら俺は襲い来るアームズ軍団に対抗しているというわけだ。

ちなみにおやっさんとかいう呼称はそう呼べと言われたからしている。


ちなみに俺が昼過ぎに起きてきたのは襲撃が深夜だったためであり、俺が昼行灯とはいえそこまで昼夜逆転生活を好んでいるからでは無いとはっきり言っておく。

そしてこの時点ではミサキとはまだ知り合って会敵していないためここにはいない。


「ンでアームズ共はどうだったんだよ?」

「今回は雑魚ばっかりだったな、だが虱潰しにしていたら一体だけ発信機を備えた個体がいた。」

「発信機、ねェ。」

「おおかたドーム内の侵入ポイントを探るか幹部格にリモートで操作されてる個体だったんだろう。」

「斥候というやつか、なかなか向こうさんにも頭のキレるやつがいるじゃねぇか。ほれ。」

「サンキュ。」と俺はいつものように紅茶を受け渡された。


白い陶磁器のティーカップ、大昔に大量生産されていたというものをおやっさんが発掘したものだ。

液体を飲むだけならアルミ製のマグで事足りるというのに、彼は好きな物にはこういった細かいところまで拘ってしまう悪癖がある。だがそれが重なって出来たものがおやっさんの愛するこのアミーゴなのだろう。


「もちろん潰したんだろうなそのビーコンは。」

「いや、こちらからも受信できるよう細工してからひたすら南を目指すプログラムを入力したドローンに載せて離したよ。」

「イタズラがすぎるぜハヤトよォ、だが」「だが悪くない、だろ?」

「クハハハハハハ、人の決めゼリフとってんじゃねぇよ!」


「だけどよ、その言葉はもうちょっとおめェが熟成してから使いな。その時ァよ、ニヒルに【敵】向けて笑みを浮かべながら使うのヨ。」

「お決まりのハードボイルドってやつか・・・了解した。」


そう言って俺は半身以上を失うもサイボーグ化手術によって生き長らえる古強者のような雰囲気を持つ彼の元から今日もアームズを倒すためバイクゼロムストライカーで街を駆け出すのだ。

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