第12回 カエルの子はカエル、ということだ
俺とミサキがこの世界タキオンに転生してから約二週間ほどが経過した。
その間に魔物を間引くため遠征していたマグラスの里が誇る義勇軍が帰還し里は一時の祝賀ムードになっていたのだ。
そんな彼らが帰ってくれば戦利品たる魔物の素材や肉によって里が潤う。よって収穫祭めいたどんちゃん騒ぎの真っ只中なのである。
その中には
「貴方が数日で里の危機を何件も救ってくれたという新人冒険者でしょうか、私はオズ・マグラス、ジオの姉です。」
いつもの冒険者ギルドを兼ねるレストランでお茶をしていた俺たちの前に現れたのはジオとは髪の色と茶褐色の肌くらいしか共通点のない、長身でスレンダーな美しいハイエルフだった。
思わず隣でパンケーキなる甘味に唸っていた
「ハヤトよ、今何を思ってワシとオズ姉を見比べたか小一時間ほど教えて欲しいんじゃが?」
「いや姉妹で随分と違うものだなと思っただけだ、以上。」
「はあ、ハヤトはもうちょっと歯に絹着せて喋ろうか?」
「クク、随分と我が愚妹と馴染んでいらっしゃるようで結構結構。」
そう言うとオズはミサキの隣へ座ってしまう。
「なるほど、その佇まいと自信は並の使い手ではないハズ。ハヤト殿と言いましたね、私はジオと違い戦働きの方が得意でして、良ければ一手交わさせては貰えないでしょうか?」
「オズ姉!?何を考えておるのじゃ!」
「報告書は読ませてもらいましたが本来であれば冒険者登録に必要な戦闘試験はまだなのでしょう?実際戦える試験官も居ませんでしたでしょうしね。」
「了解した、ならば胸を借りるとしましょう。」
と立ち上がると横のジオが慌てて呟く。
「我が姉は歴戦の勇士とはいえお主には適わぬじゃろう、間違っても【ふぁいなるあたっく】など使うでないぞ!」
「ふぁいなるあたっく・・・?新たな魔法かなにかなどで私はたじろぎもしません。手加減などしてお互いに恥をかかないような戦いにしましょうね。」と残してさっさと訓練場の方へ立ち去ってしまった。
「変身する必要も無い、間違っても彼女の素材など出たら笑えないからな・・・。」
「でもお姉さんかなりやり手じゃない?なんかデキる女上司みたいなイケイケオーラ感じるもん・・・わたしはちょっと合わないかなー。」
「・・・。」
俺もその手の女性がたいへん苦手である。
プライドの塊のようなやつは鼻っ柱を折ってやりたくもなるがああいうタイプは負けても面倒なケースが多いが・・・。
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少しして訪れた訓練場はまるでコロッセオかと勘違いするほど熱気に溢れていたのだ。
白墨で区切られた四角いフィールドの周りは普段ならば訓練に勤しむ冒険者や門兵などしかいないのだが今日に限っては里の民やらでごった返しているのだ。
「む、来ましたねハヤト殿。少し騒がしいですがこちらまでどうぞ。」と先に着いていたオズさんに手招かれる。
彼女は先程ギルドにいた時と違ってフルプレートの鎧を着込み、木剣の柄へ両手を置いて待っていたのだった。
四角いリングへ踏み込むとギャラリーから同じような木剣が俺へと投げ渡された。
「ではどちらかが一本取るまでを模擬試験の内容としましょうか?」
「了解した。」
俺の後に到着したミサキとジオも今ギャラリーに加わったようだ。
「では行きますよ?・・・【
「・・・!【
自身に
「魔法ありなら最初から障壁を貼らんか!」とジオが壁を作ってくれた。
「まさか妹の得意魔法が来るとは思わなかったですわ、貴方魔法剣士でいらしたの?」
「いいや、あとは生活魔法程度のものだ。」
と今度は無詠唱の
「ッ!
「これで一本でいいだろうか?」
一拍遅れて事に気付いたギャラリーから歓声と悲鳴が入り混じる不思議な声援が上がったのだった。
その後ミサキにも負けた時は半泣きになっていたので悪いことをしてしまったような妙な罪悪感に襲われたのは言うまでもない。
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「まさかああは言ったものの本当に我が姉に変身せずとも勝てるとはな・・・。」
その後オズさんは「遠征から帰ってきたばかりで本調子ではないからでしょう!そうとわかれば体を休めねば!」と無理やり納得して訓練場から出ていってしまったからな・・・別の意味でジオの姉らしく残念なところがあるのか。
「おおそうじゃ、この二週間この里にも慣れてきた頃であろうと思ってな。ちと遠出してのクエストがあるんじゃが受けてみんか?」
「遠出?」
「うむ!上手くいけば海の美味いものが食えるぞ?」
「それはまさか海産物というものか!」
「すごーい、珍しくハヤトがノリノリだ。」
それはそうだ、なんだって俺は海由来の食べ物を未だ食したことがないのだからな!
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