第13回 サンドイッチと蜘蛛娘
次の日。
朝方に出発した俺たち三人は
「ふう、流石にこんな化け物で街道を走るわけにはいかんかの。それにしても真っ直ぐとはいえ大森林を突っ切っれば一日と掛からず到着する予定とは・・・。」
本来のルートというのは出発前にジオから聞いた、マグラスの里とセルゲイを繋ぐ街道を馬車かゴーレム馬車で行く最低でも四日はかかるという道筋だ。
道中には大きな湖が二つはあるので必ず迂回しなければならないらしいが俺のマシン達にかかればそんな物は足枷にもならない。
と、ジオに説明したがなんでバイクと車に???と理解は及んでいないようであった。
「あ、見えてきたよー!アレじゃないかな湖って。」
「そうじゃ!これこそかつて巨人が造り上げたという伝説の残るセルラス湖じゃな。」
湖岸でバイクを止める。
今まではどちらのビークルを運転していようとも気持ちよさなど感じたことは無いが今回は違う、綺麗な水と爽やかな風が吹くこの場所は俺に生まれて初めての心地よいという感情を芽生えさせていた。
「あーっ、気持ちいい!この独特の空気が美味しいって言えばいいのかな?ドライブって気持ちいいんだねぇ・・・。」
「どらいぶ?とやらはわからんが大自然の中を駆けるという意味なら合っておるぞ!因みに湖の命名はワシの親の代じゃな、セルゲイとマグラスの里の中間にあるからセルラス湖じゃ。」
・・・ダジャレはいらんかったが取り敢えず無性にここで休憩していきたくはなった。
確かミサキとジオが屋外でも食事できるキットをゼロムキャリアーに積んでいたはずだ。
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「しかしハヤトが休憩を提案するとは思わんかったのう、これだけ天気がいいのに急いでばかりもいてもつまらんからな!」
「一応は向こうの街からのクエストを承けたのだろう?そんなにゆっくりでいいのか?」
「確かホントなら四日かかる距離なんでしょ?それなら飛ばせばすーーぐ着くんだし。」
「ミサキよ、まさか
「うん。本気で
顔色が悪くなったジオは置いておくとして、このように外で食事を広げるというのもまたいい物だな。
これが隠れ里で過ごす間に度々聞いたピクニックというものだろうか?だとすればこんな善い文化を廃れさせてしまった阿呆の考えなど理解できそうにもない。
「俺のいた世界で同じようなことをすればたちまち浮浪者扱いだな。」
「何を言うか、料理はもちろんじゃが心が休まるような文化の消えた国などもはや民を飼って働かせるだけの軍事国家と変わらん!その民を救う為動いていたお主には悪いがこの世界に来て幸せだったと思うぞ?」
そう言ってジオは見た目相応の少女のような笑顔を浮かべ・・・
・・・すぐに持ってきたサンドイッチを頬張って台無しにしてくれた。
「うむうむ、お主の腕も上がっているようじゃなミサキよ!」
「そう?獣人のおねーさんに教えて貰って自分でも上手くなってる気はしてたんだ!」
「お前が料理を!?」
そういやさっきから俺が満足そうに食べる事に横でニヤニヤしているとは思っていたが・・・あの家事など何もしないコイツがか??
「家事なんてしたことも無いのに料理だと!?」
「考えてそうなこと口にも出すの悪い癖じゃないかなぁ!?」
そんなケンカ一歩手前の状態の時、森の方から近寄ってくる影があった。
ジオは魔物と考えたのだろう、咄嗟に
「おねがい・・・助けてぇ・・・。」
「ジオ、魔法解除だッ!彼女はなにかに襲われている!」
「あ、ああ!」
光の壁が消え、支えを失った女性が前のめりに倒れる。するとすぐに後ろの茂みから
「待つがいいハヤト!
「は?」
殴りかかろうとした拳を引っ込める。
そしてよくよく女性を観察すると・・・なんと女性の下半身、細かく言えば腰から下がその後ろのもふもふとした丸い物体と繋がっていたのである。
その物体からはやはり毛に覆われた少し太めの脚が六本も伸びており、先には
「珍しいな、この女は」「もしかして【アラクネ】って奴じゃないかな!!」
ジオが喋ろうとしたところを食い気味に
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【アラクネ】
この世界での分類的には魔物と人族の中間に属する、亜人と呼ばれる半身が蜘蛛の種族である。
この亜人種は他の人族に比べて野生に生きることが多いらしく街やその近くで見かけること自体珍しいとの事。そして魔物のような身体的特徴を持つ彼ら、いや彼女たちは大概が女性として生を受けるらしい。
亜人種は体内に魔石を持って産まれてくるため過去にはモンスターだのデミヒューマンだのと差別を受け人族と争ったこともあるようだが・・・。
「過去に現れた稀人がこの世界で権力者となってな?こ奴等のことを『魔物娘を敵とするなんてふざけるな!こんなに愛らしいというのに!!』と、差別意識を撤廃するよう働きかけ、その生涯を捧げたそうな。」
物好きもいるものだな・・・俺は先入観がないからいいものを魔物のような人種など普通の人にとっては不気味の谷のはるか向こうの存在ではないか?
そんなことを考えているとアラクネの少女が気づいたようだ。
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