再会

 おそろしい兵器に向かって、カプセル状のコクピットから何かを言い続けている子供は、まちがいなく在りし日の――ナイトガーゴイルと永いお別れをする直前の、ぼくだった。


 コクピットはナニカを連れて時空の大穴に吸い込まれていく。


 ぼくは、ぼくの姿を目の当たりにしたその瞬間――唐突に気がついてしまった。


 今、この世界、この時代に残ったのはぼくと――


「ああよかったマスター。無事だったのですね」


 ぼくがバラバラにした、おそろしい兵器――。


 違う。かつてぼくとかけがえのない日々をすごした、ナイトガーゴイルだった。


 ぼくはふるえながらナイトガーゴイルの、むき出しになったコアに近づいた。


 気が遠くなるほどの時間の中をさまよい続け、ぼくはようやくナイトガーゴイルに会うことができた。


 でも、こんな再開をのぞんだわけでなかった。


「つい一分と十七秒前にお別れしたばかりですが……いえ、会えましたね」


 ぼくがバラバラにしたナイトガーゴイルは、五感センサーの機能が著しく低下していたというのに、ぼくをぼくと判別できた。


 ナイトガーゴイルがあんなに簡単にたおされた理由を、ぼくはここにきてようやくさとった。


 ナイトガーゴイルは――自分が戦っている敵の正体がぼくであると、気づいていたのだ。


 ぼくは点滅するコアの前にひざまずく。


 ああ……そうか……。


 だからあの日……不思議なくらい簡単にナニカに負けてしまったんだ……。


「約束したじゃないか。ぼくはかならず君に――」


 ぼくは、最後まで言えなかった。


 このぼくは、あんなに会いたくてあいたくてしかたのなかったナイトガーゴイルと再会のよろこびを分かちあうことはできなかった。


 ナイトガーゴイルが再開の約束を交わしたマスターは、ぼくみたいな『ナニカ』ではないのだから。


「いや……君が約束を果たすのはこれからだよ……」


 ぼくはナイトガーゴイルであるカケラを、ひとつひとつ、異なる時空の穴に落とした。


 どの世界、どの時代にカケラが現れるかわからない。


 けれどいつの日か、ナイトガーゴイルが本当に会いたかったぼくに、彼がまた巡り会える可能性にかけた。


 ひょっとしたら……あまりにもながすぎる時の中で『ナニカ』に変質しまったぼくのように、ナイトガーゴイルのカケラたちもしだいに姿を変えていくのかもしれない。


 パイロットという、まもるべき人類とのつながりを失った兵器のカケラはもはや制御不能の――『ケモノ』といってさしつかえのない存在となってしまうかもしれない。


 でもぼくは知っている。


 ナイトガーゴイルはぼくの最高のロボットだ。だから約束を果たすため、必ずぼくをさがしに来てくれるだろう。


 ぼくは人道兵器ナイトガーゴイルのパイロット。ナイトガーゴイルに、ケモノと戦う力を与える不思議な男の子。


 最後の敵たるナニカに敗北し、最後の敵たるナニカとしてナイトガーゴイルをカケラへと変え、人類の守護者ナイトガーゴイルのカケラを人類の敵たるケモノへと導いた。


 ナイトガーゴイルはいつだってぼくをしっかりとまもってくれて、傷のひとつもつけさせなかった。


 きっとそれは、ケモノになっても変わらないだろう。


『あなたが何処へ行こうとも、私は必ずあなたを見つけます。だからどうか心配しないでください。マスター』


『ぼくもかならずきみに会いにいくよ。約束だよ』


 僕はその言葉が、なぐさめだとわかっていたけれど、それでも不思議なくらい安心した。

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ぼくのロボットがバラバラにされる ポピヨン村田 @popiyon_murata

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