春雷

@amacha3

『春雷』

『春雷』

季語で使われる言葉。夏のゲリラ豪雨のような雷とは違い、雹や霰が降るという。

今、まさに僕の恋は春雷に打たれたような気持ちだ。

遅刻した入学式に出るのも億劫で、校内の桜並木を散策していた。

中庭と呼ばれる場所に大きなソメイヨシノが植わって、その木を囲むように白い木製のベンチが円を描いて佇んでいる。

ゆっくりと葉桜になりかけている下を歩いていると、木陰で淡い白のカーディガンを布団にしている薄幸と呼ばれそうなほどの美少女が眠っていた。

木々の間から差す春の柔らかい光が、彼女を少し艶っぽく彩る。

その瞬間、僕の身体中に春雷が打たれ、舌先が甘く痺れたような感覚に陥った。

暖かい風に、彼女の漆黒の髪が揺らめいて、花弁を数枚絡めとる。

薄紅色の唇から漏れる寝息に、耳が…僕の五感が激しく反応する。

(…触れたい…)

欲望が頭を渦巻く中、気づいたら彼女は少し起き上がりこちらを見ていた。

「…エッチ…」

クスッと笑って上目遣いをした彼女の声は、甘くまるで砂糖菓子のようで、僕は息ができず、胸元をギュッと押さえた。

一つ一つの仕草で雷に打たれたようになる、こんな感覚が初めてで…僕はこの春雷の日を生涯忘れないだろう。

入学式は春の嵐のなか終わりを告げ、僕の三年間の恋の幕が上がる。

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