第15話 義姉妹

 昨日は魔法協会に行って魔法を調べてもらったり、マーズニさんの魔法を目の前でたくさん堪能したり、魔石の採取で体を目一杯使って充実した一日だったな。

 マーズニさんは「大事をとって明日は体を休ませましょう。お嬢様は来れる時にここに来て採取に行きましょう」と提案してくれた。もうさ、毎日でもいいくらい楽しかったけど、あんまり抜け出してるとアイツらに怪しまれるもんね。だから今日はせっせと屋敷中の窓ガラスを拭いて二の腕を鍛えるんだ。


「ちょっとシンディ!」


 鼻歌を歌いながら窓を拭いていると聞きたくない声で呼ばれた。目だけそちらを見るとエリザベスとキャサリン姉妹が立っている。コイツらのことは愛称で呼ばないと決めたんだよね。それにしても改めて見てみると、エリザベスは前髪を全部上げて胸までの縦ロールがバッチリ決まってる。目も髪も朱色に近い赤い色のせいもあってとにかく気が強そうだ。

 そしてキャサリンはかなり濃い緑の髪で、ギリギリ目に入らない長さでかなり重めのパッツンにしてツインテール……いや、ツインドリルにデカいリボンを付けている。本人は上目遣いのつもりなんだろうが下から見る目付きが腹立たしい上に、めちゃくちゃ童顔だからギリセーフだけど二十歳を過ぎてそのリボンはないだろうと思うほどいろんな意味で残念な子だ。


「あなた掃除もまともに出来ないの!?」


 エリザベスは窓の桟を指でなぞってそう言い、どこの姑だよとツッコミたい衝動を頑張って抑えた。


「……そっち側はまだですが? あっちから順番にやってるんで」


 しれっと言ってやるとエリザベスはイライラしてるのが丸わかりの顔をしている。キャサリンはというと唇に人さし指を当てている。考え事をする時の癖なんだろうけど、年齢を知っているだけに痛々しく見える。そして唇から人さし指を離したと思ったら、その指でガラスをなぞりやがった。指紋どころじゃなく口紅がべっとりとガラスに付いている。


「……これダメでしょキャサリン」


 頭に来てしまい素で言葉が出てしまった。それを聞いた二人は吠える。


「何ですって!?」

「私たちのことはエリーお嬢様とキャシーお嬢様と呼べと言ったでしょう!」


 二人とも顔を真っ赤にしてヒステリックに叫んでいるけど、ただ叫ぶだけの女なんてあたしは別に怖くもなんともない。ただただウザいなぁって思うだけなんだけど。


「なんで? あのさ、認めたくないけど義理の姉妹なんだから妹のことは呼び捨てにするでしょ。つか義理でも姉妹って認めたくないからアンタらのことエリザベスとキャサリンって呼ぶから。それとさキャサリン、その口紅の色だけど似合ってないよ?」


 童顔ロリ顔のツインドリルで、人を食ったような真っ赤な口紅をいつもしてるから似合わないなぁって思ってたんだよね。あたしとしては少しだけ言い返したつもりだったんだけど、普段のシンディからは考えられなかったみたいで二人は金切り声で叫んでるんだけど何て言ってるのか分かんないし。小学校のクラスに一人はこういう女いたよね。小学校の時は親より恐怖の対象はいなかったから、黙って聞いてると余計イラつくのか騒ぐっていうループがウザかったな。


 うるさいなぁと思いながらシカトして窓を拭いてたらやっぱり余計怒らせたみたいで、エリザベスはあたしに向かって手をかざす。まだ魔石洞窟でしか魔力を見ることが出来ないあたしは少しビビった。けど何も変化を感じなくて、エリザベスもそれで満足したのか「行きましょう!」とキャサリンを連れてどっかに行ってくれた。


 ようやく静かになったと思って綺麗に窓を拭き、隣の窓に移ろうとしてつんのめった。何事かと思って足元を見ると、絨毯の繊維が草むらのトラップのように靴に食い込んでいた。


「地味! 超地味!」


 もうその場にはいないエリザベスに向かって叫んじゃったよ。この魔法マジで地味すぎるでしょ! 普通にそのまま一度靴を脱いで絨毯トラップから靴を外して履き直した。そしてこの絨毯をどうしようと考えながら見ていると、段々と普通の絨毯に戻っていく。


 あれ? もしかしてエリザベスって魔法使いとしても大したことないんじゃね? 厨房の人たちもメイドさんも継母のことは恐れているけど、エリザベスたちのことはほとんど何も言わないよね? だとしたら、めちゃくちゃ修行をしたらアイツらあっさりと降参するんじゃね?


 くっくっく。新たな修行の楽しみが出来たよ。ありがとうエリザベス、キャサリン。お前らいつか泣いて土下座してシンディに謝ってもらうからな。

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