第12話 棚ぼた的目的成就
「シンシアさん」
「……はい」
経験上、名前だけを呼ばれる時って怒られる時なんだよな。しかも名前を呼ぶのが年配の人だと特にその傾向が強い。怒鳴られたりなじられたり嫌味とかは聞き流せるんだけど、静かに怒られるのってホント苦手なんだよなぁ……。
「シンシアさん、顔を上げてください。私はね、こんなにも素晴らしい瞬間に立ち会えて本当に嬉しく思っています」
へ? あたしはバッと顔を上げて職員さんを見ると、優しい笑顔でニコニコしている。
「魔法測定器が耐えられないほどシンシアさんの潜在魔法は多く、私も全部が読めないほどでした。その中でも一番強く見えた魔法は『目』です」
洗剤魔法? 泡立つの? 目に入れたら痛いから攻撃魔法になるのかな? あ、目に洗剤を入れて戦えってこと?
「まだ魔力量と質が足りないですがとても伸びしろがある。あの光はそれを知ることも出来るのですよ。しっかりと鍛えれば、将来国の機関で働くことも可能ですよ」
なんかよく分かんないけど、マーズニさんとマックがすっごく歓声を上げている。でもブクブクの魔法でしょ? 皿洗いとか嫌いじゃないけどさぁ。
「ここまでの潜在魔法を秘めたシンシアさんを見込んで協会からお願いがあります。魔石を知っていますね? 魔石に魔法使いが魔法を込めた物は、魔法を使えない一般人の生活に欠かせない物です。魔石洞窟に魔石の採掘及び採取に行ってもらえませんか?」
「でもモンスターが出るんでしょ? 倒し方が分かんないっていうか……」
厨房のオバちゃんことクレアさんに聞いて、行ってみたいと思ってた魔石洞窟の話が出た。出たはいいけど洗剤魔法でモンスターを洗うわけにもいかないし。
「もちろん一人でとは言いません。そちらのマーズニさんに同行してもらい、指導を受けながらという条件付きです。マックーリ君の修行にもなると思いますよ。お二人の『心魔技体』を考慮すると、二ヶ所の魔石洞窟に行けそうですね」
マックは「よっしゃー!」と喜びの雄叫びを上げている。なんかよく分かんないけど魔石洞窟に行けることになったっぽい。ガバガバ設定のこのゲームに感謝だ。
職員さんは魔石洞窟に入る為の通行証を発行し、それをマーズニさんが受け取る。通行証に魔法協会の魔法が込められていて、それを門番に確認してもらい不正防止とするようだ。
魔法の測定は終わったのであたしたちは協会から出ることにした。
「じーちゃんやったぜ! 早く魔石洞窟に行こうぜ!」
「しかし武器を置いて来ているからなぁ……」
二人のやり取りを聞いてあたしは口を挟む。
「ねぇ、武器が必要なくらいモンスターって出るの?」
その疑問にマーズニさんが答えてくれる。
「いや、そこまでモンスターが現れるわけではありません」
マーズニさんが言うには『魔石洞窟』と呼ばれるくらいなので基本的には魔石しかないらしい。魔法濃度が高い場所に魔石がニョキニョキと生えてくるらしくて、枯渇することはないんだとか。そして自然に高濃度の魔力が込められた魔石の一部が、最初から魔法が使えるレア魔石といってなかなか見つからないらしく、そのレア魔石の中から低確率でモンスターが生まれてしまうらしい。うーんイミフ。
「でもさぁ、マックは『力』とか『火』とかカッコいい魔法じゃん。あたしなんて『洗剤魔法』なんでしょ? 魔石を洗えばいいの? それともやっぱりモンスターの目に洗剤を入れるの?」
あたしは深刻な顔をしてかなり真面目に言ったのに、数秒の沈黙のあと二人は盛大に笑い始めた。
「シ……シンディお嬢様……!」
「シンディ……腹が痛ぇ!」
なんで二人が笑ってるか分かんなくて首を傾げていたら、ようやく笑い終わったマックが話し始めた。
「その『洗剤』じゃねぇよ! ブハッ! まだ内に秘めてるっていうの? とにかくいっぱい魔法の素質があるってことだよ! ハハハハ!」
「えぇ!?」
マックはツボにハマったらしく、吹き出しながら説明をしてくれた。どうやらあたしは盛大に『センザイ』の意味を間違えていたようだ。恥ずかしすぎて真っ赤になってしまう。……学力って大事だよなぁ。あ、でももしかしたらブクブクの魔法を使えるかもしれないね! なんて前向きに考えて顔を上げた。
「魔石洞窟であれば魔法濃度も高いので、シンディお嬢様にも分かりやすく説明が出来ると思います。お嬢様は潜在……くっ……潜在魔法が多いので色々と試すことが出来ます。入り口辺りであればモンスターも現れないでしょうし行ってみましょうか」
よほど魔法について知識がないとバレてしまったみたいで、さっきまで武器がないと言っていたマーズニさんが行くと言い出した。マーズニさんは必死に笑いを堪えているようだ。超〜ハズいけど、行けることになったからまぁいっか。
そして魔石洞窟に向かう途中の道具屋で、ツルハシと背負カゴという極めて原始的な道具を買ってもらって「えぇ……」と思いながらも装備した。
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