第10話 修行の日々

 無事にお風呂に入れたあたしはその後もメイドさんと少し話をした。どうやらシンディはあの姉妹に意地悪されてお風呂も満足に入れてなかったらしい。マジでアイツらイラつくわ。


 それで決まったのがアイツらがまだ寝ている早朝にお風呂に入るってこと。あたしは筋トレの他に体力作りも兼ねて、まだ薄暗いうちからランニングも始めることにした。お嬢様だからかワンピース的な服しか持ってなかったから、料理長に頼んで闇夜に紛れることの出来る男物の黒い上下の服を買ってきてもらったんだ。厨房メンバーは食材の仕入れとかで街に買い出しに行けるらしいし、意外にもたまには家に帰れるらしかった。ちなみにオバちゃんの名前はクレアさんっていうのもようやく知れた。


 まだ暗いうちに屋敷を抜け出して走り込んで、帰って来たらお風呂に入って、厨房にご飯を貰いに行って、継母たちに怪しまれないようにメイドさんたちに混ざって適度に掃除をしたりする。義姉妹の嫌がらせにはひたすら耐えて、後で全部ぶちまけることにするって決めた。ちなみに掃除をする時に筋肉を意識すると見事な筋トレになるんだよね。それから寝る前に腹筋と腕立てを限界までやるっていう日々を続けた。

 そんなことを一ヶ月もしていたら、あんなにか弱かったシンディの体も健康になってシュッと引き締まり、誰に見せても恥ずかしくない体になった。もちろん誰にも見せないけどね。よし! 『体』は鍛えられたはず! そろそろマーズニさんに会いに行ってみよう!


────


 マーズニさんの家の前まで行くと、庭でマックが剣を持って素振りをしている。幅広の剣だし重そうだな。


「おーい! マック!」


「シンディ!? 心配してたんだぞ!」


 やほーって手を振りながら走って行くと、マックは素振りで使っていた剣を地面に落として狼狽えている。


「心配? なんで?」


「なんでって、一ヶ月も音沙汰なしだったろ!? こっちからは探りに行けないし、何かあったんじゃないかって思うだろ!」


 心配って言ってたのに今度は怒り始めちゃった。中学の時の担任を思い出すなぁ、なんて思っているとマーズニさんを呼びに家に入って行った。外で待っているとマーズニさんも慌てて出てきたけど、涙ぐんで「心配していました」と言っている。何か悪いことしちゃったなぁ……。


「あの、何か心配かけたみたいでごめんなさい。この前来た時にあんまり話を聞いてなくて……『心』と『体』を鍛えるってのは覚えてたから、一ヶ月みっちり鍛えて来たんだけど……」


 そう言いながら腕まくりをして力こぶを作ると、二人は「おぉ……」と驚いてるのか引いてるのか分からない感想を漏らしていた。


「あの日、都合の良い日に来ていただければ体力作りをしましょうと申し上げたのですが……もうご自分でされてしまったのですね……」


 マーズニさんはやっぱ引いてるみたいだ。


「うん、頑張って筋肉と持久力は付けたけど『心』がよく分かんなくて」


 そう言うとマーズニさんは強い意志や希望、ブレない心が『心』だと言う。


「何かありましたか? そちらもかなり鍛えられているようですが」


 と言う。うーん……あの継母と目を合わせたらダメな気がして頑なに目を合わせないようにしてたとか、あの義姉妹を毎日脳内でフルボッコにしていつか本当にやってやるわと誓ったりとか、屋敷で働くメイドさんたちをいつか全員魔法から解き放つつもりだとか、そんなことは毎日思ってたけど。まさかそれ?


「まぁ……心当たりはあるといえばあるかな……」


 苦笑いでごまかすとそれ以上は聞かれなかった。まさかシンディが脳内とはいえ、あんなことやこんなことを想像していたなんて言えない。


「マックよ。お嬢様は必死に努力をされ、お一人でここまで成長なされた。守るつもりが守られる側になるかもしれんぞ」


 マーズニさんがそう言うと、マックはショックを隠しきれない表情になっている。


「俺だってかなり頑張ったんだけどなぁ……」


 なんてボソボソと言いながら。


「マーズニさん、次は何をしたらいい? 魔法ってどうやって使うの?」


 矢継ぎ早に質問をするとマーズニさんはしっかりと答えてくれた。『心』と『体』については毎日このまま修行を続けるようにと言われ、魔法については『魔法測定器』で自分の特性を知ってから修行をしたほうが良いと言う。


「この一ヶ月で二人とも鍛えたおかげで『魔』も成長し、魔力量も質もかなり上がっているようです。これならば魔法測定器で判別できるでしょう」


 そうマーズニさんは言う。マーズニさんの『知』の魔法で判別出来ない辺り、KOTYらしい矛盾だなと思うがもちろんそんなことは言わない。ちゃんと「そうなんですね」と棒読みで返事をしたあたしはエライ。


 あたしたちは自分の魔法の特性を知るために一度街へ行くことになった。

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