第7話 体を鍛えよう
やらかした。そそくさと帰って来たおかげで、どうやって『心』と『体』を鍛えるのか詳しく聞かなかった。でも『体』って言うくらいだから、やっぱ筋トレかなぁ。じゃあ『心』は? ……マーズニさんに次に会った時に聞けばいいか。そうと決まれば筋トレ筋トレ!
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「……すいません……肉……肉を……」
「お嬢様!?」
ヨロヨロのボロボロになりながら、なんとか厨房に到着した。
マーズニさんの家から帰って来た時に時計を見ると夕方だった。下手に屋敷内をうろついて継母や義姉妹に会いたくないし、もちろん一緒になんて食事をしたくなかったからずっと筋トレをしていた。
あたしは子どもの頃にお腹を殴られるのが嫌で、っていうか顔とかだと殴ったのがバレるから目立たない部分を殴るんだよね、アイツら。だからひたすら腹筋を鍛えて、中学高校くらいからはバッキバキに腹筋が割れるくらいだった。それからも日課になっていたから毎日腹筋をしていたんだけど、負荷をかけるか回数を増やすかで悩むくらいあたしの腹筋は鍛え上げられていた。
その時の癖のまま腹筋をやろうとしたら出来ない。何をどうしても頭が持ち上がらない。軽くパニックになったあたしは少ししてから気付いたけど、この体はシンディのものだもんね。お嬢様で、さらにしばらく引きこもっていたなら体力も筋力もないのは納得出来る。納得は出来るけど、それじゃあ『体』は鍛えられない。シンディには悪いけど、徹底的に全身を動かした。そのせいで疲れすぎてしまった。
「お嬢様、いつもお野菜しかお食べにならないのに……。私たちは嬉しく思いますが大丈夫ですか?」
また保管庫に隠れるように言われ、運ばれてきたのは何だかオシャンティーな肉料理。シンディの体を動かして分かったけど、驚くほど筋力がないんだ。だから肉を食べようと思ったんだけど、疲れきった体で美味しそうな肉料理が目の前にあるんだからあたしは迷わずがっついた。
「……うぇっ……」
お肉大好き! めちゃくちゃ美味しい! って思っているのに、なぜか受け付けない。きっとシンディがほとんど肉を食べていなかったせいだろう。だけどあたしは逆境に強い女。そして肉が好きなの。意地でも食べてやる! 無理やり肉を飲み込んで、フラフラと厨房に戻る。
「……肉、飲み物、野菜、パン、肉、っていうか余り物があったらちょうだい……」
なんか肉って二回言ったような気がするけどまぁいいか。料理長や厨房の人たちは驚きつつも喜んでくれている。シンディ、よっぽど食が細い子だったんだね。シンディの体を好き勝手するのは申し訳ないって思ってるんだけど、これをきっかけに健康的になろう? 大丈夫、あたしにとっては『健康的になる』なんて二回目だ。荒療治で悪いけど少し無理するよ。
保管庫の床に座り壁に体を預けて休んでいると料理長が入って来た。
「本当に余り物だけで申し訳ございません」
「……みんなは食べたの?」
「はい、もう済ませております」
そう言う料理長の手にはお盆があり、その上にハムエッグやサラダ、カリカリに焼いたベーコン、そして手のひらサイズのコッペパンみたいなのが載っている。後ろには朝に泣いてたオバちゃんがオレンジジュースっぽいものを持って立っている。あれ? これ、最高の食べ物に変化するんじゃね?
「あの……このパンを横に半分に切ってもらってもいい? あとケチャップとかマヨネーズがあると嬉しいんだけど……」
それを聞いた料理長が厨房に戻る。その間にオバちゃんがコップにジュースを入れてくれてそれを飲み干す。すると料理長が戻って来たのでお盆を受け取りあれを作る。
パンを手にしてサラダのレタスだけ抜きとってパンに載せ、その上にベーコンを載せる。たっぷりとケチャップをかけたあとにサラダに入ってたオニオンスライスを載せてマヨネーズをかける。さらにその上にハムエッグとサラダに入ってたトマトを載せてケチャップをかけてパンを上に載せれば……出来た! 即席バーガー! ガブッとかぶりつけばパティは入ってないけど充分に美味しい。野菜が入ってるおかげかシンディの体も拒絶しない。ウマウマと食べているとオバちゃんが軽く引いている。
「お嬢様……それは……?」
「食べかけで悪いけど、一口食べてみる?」
そうしてオバちゃんに差し出すと、興味があったのかそれを受け取り恐る恐るかじっている。少し咀嚼するとオバちゃんは目を見開いた。
「美味しい!」
「でしょ?」
ドヤ顔でそう言い即席バーガーを返してもらって平らげる。まだパンが残ってるし具も残ってるから、もう一つ作って食べた。
「お嬢様、どこでこのようなものを? いえ、たくさん食べてくださったので嬉しいのですけど……」
「秘密。でもこれに牛肉のハンバーグを入れたら最高。さらにチーズも入れたらもっと最高!」
ハンバーガーというものがない世界らしくて、料理長はメモを取り出しレシピを書いている。書くほどのものじゃないんだけどね。
「明日からはもっと食べるから、肉も野菜も魚も何でも用意して」
図々しくもそうお願いすると、料理長もオバちゃんも喜んで「かしこまりました!」と言っている。全ての道は食に通じているのだよ。みたいな言葉があったよね? あれ? 違ったっけ? まぁ食事は大事だよってこと。シンディ、頑張ろうね!
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