リーゼロッテの誕生会 終
リーゼロッテ姫と二人、馬車に揺られながら私は機嫌よく言った。
「リオンには困ったものだな。護衛だから踊るつもりは無かったのだろうが、ダンスはアヒルで」
「アヒルではなくてヒヨコですわ」
「そうそう。ダンスはヒヨコだったな。ワインは魔法で防げば良いのに」
「それもそうですわね。あの。ルシオ様、これから何処に行かれるのですか?」
リーゼロッテ姫は馬車の外を見やり尋ねた。
「着いてからのお楽しみだ」
今日は時間もないので出掛ける予定はなかったのだが、リーゼロッテ姫が以前美味しいと話していたチーズケーキを食べに行くことにした。
城では何処へ居ても落ち着かない。
陛下の視線を感じてしまうから。
しかし、馬車なら確実に二人きりだ。
「あの。それで……リオン様はどうしてあんなに積極的ですの? 普段はホワホワしていますのに」
「……私のせいだ。別れ際のキスは必然だと伝えた。しかし、リオンは研究漬けで、一般常識が欠如していたようだ。まさか……」
「……ですわ」
「ん?」
「ずるいって言ったのですわ」
視線は外へ向けたまま、唇を尖らせ頬を膨らませる。その姿がなんとも愛おしい。
「……姫と別れたくないけど、今が別れの時間だったらよかったのに。と初めて思いました」
「え?――あっ。着きましたわ」
言葉の意味を理解してか、リーゼロッテ姫は私からまた視線を外して目線を外へ向けた。
「はい。リーゼロッテ姫。帰りの馬車。楽しみにしていてくださいね」
「……っ。ぷ、プレゼントはもういただきましたわ。でも、私……薔薇は好きですけれど、薔薇に例えられるのは好きではありませんからね」
「え? それは……」
「帰りの馬車で教えて差し上げますわ」
今日一番の笑顔で、悪戯に微笑むリーゼロッテ姫。
可愛い私の婚約者……しかし、薔薇に例えられるとは何の話だ?
毎年誕生日には薔薇をプレゼントしている。
それは、初めてリーゼロッテ姫を見た時に似ていると思ったからだ。
ということは、もしかして――。
◇◇
その頃、宮廷魔導師の工房にて。
テーブルの上に様々な色の石ころが並べられている。
これは、ブロウズ伯爵領から拾ってきた川原の石や、山の洞窟から採掘した鉱石や岩など。
リオン様は、より多くの魔力を込めることが出来る石を探しているらしく、父に頼んで手に入れてもらった。
「今の技術では、転移魔法や通信魔法等、高度な魔法は俺や魔法が使える人間しか扱えないのです。この魔力結晶をより改良して、多くの魔力を込めることが出来れば、エミリア様も一緒に国家間を転移できたり、いつでも……」
リオン様は部屋の隅に控えたライナーを一瞬だけ見ると、こそっと私にだけ耳打ちした。
「会いたい時に会えるようになります。誰にも秘密で」
「まぁ」
「ただ、ちょっと時間がかかるかと思いますが……」
リオン様は白い小石を手に取り眉間にシワを寄せてうーんと唸っている。
いつでも真面目で一所懸命なところが好き。
私の視線に気が付くと、リオン様はニコッと微笑んでくれた。
この笑顔も大好き。
「何年でもかまいません。私はずっとリオン様のお側におりますから」
「……は、はいっ」
リオン様のはにかんだ笑顔を浮かべた。
この笑顔を、誰よりも近くでずっと見ていたい。そう思った。
おわり
妹に婚約者を譲ったら、年下の宮廷魔導師見習いがぐいぐい来るようになりました 春乃紅葉@コミック版配信中 @harunomomiji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます