ルシオとリオン
しかし、国へ戻るとやはり寂しい。
仕事に打ち込むしかないと思い、無心で職務をこなす。でも、今日がリーゼロッテ姫とエミリアの茶会の日だと気付くと胸が悶々とした。
溜め息と共に天井を仰ぐと、後ろでドサッと音がして、振り返ると床に踞るリオンがいた。
外交の仕事に就いてからほとんど会っていなかったから半年振りくらいだ。
「リオン。また何か出来たのか?」
「……もう。作りたくありません」
「リオン、どうしたのだ?」
久し振りに見た弟は酷く憔悴していた。
ソファーに座らせ話を聞くと、涙を我慢しながらリオンはひとつ一つ話してくれた。
今、リオンが携わっている研究が武器や兵器など、軍事用の物に転用されたそうだ。リオンは自分の作ったものが争いに使われることを酷く懸念していた。
「こんな事の為にやってたんじゃないんだ。俺は……」
「安心しろ。国外に出さないようにする。交易は私の担当だ。もちろん武器もそうだ」
「本当ですか?」
「ああ。どうせ父がやらせていたのだろう? 兄様は父とは違う考えだし、兵の全権はいまや兄様が持っている。兄様はリオンの嫌がることはしない。兄様には相談していないのか?」
父は兄と張り合っているのだ。妻である王妃が息子達のことばかり目をかけていることが気に入らず、何とか国王の面子を保とうとリオンを使ったのだろう。
それに、兄様はリオンを溺愛している。
年の離れた弟ほど可愛い者はいないらしい。
「はい……。研究室に閉じ込められていたので。やっと隙を見て……」
「閉じ込められていた?」
流石にブチ切れそうになったが、何とか平静を保ち、打開策を思案した。父の側にリオンを置いておくのは避けた方がいい。
「リオン。……そうだな。外国へ魔法の勉強などしに行くのはどうだ?」
「逃げるみたいで嫌です」
リオンはこう見えて頑固だったことを忘れていた。
普段はニコニコしているのに、意外と負けん気が強い。
「……そうか。ならリーゼロッテ姫を見守っていてくれないか? これは私にとって最も重要な案件なのだが」
「リーゼロッテ姫を、ですか?」
「ああ。エミリアを知っているな?」
「はい。リーゼロッテ姫のご友人で、紅茶はアールグレイがお好きで菓子はクッキーも好むけれどフワッとした甘いパンやマドレーヌがお好きで、ピンクのチューリップをプレゼントした時、今までにないくらい瞳を輝かせて喜んでいらっしゃった方ですよね」
よくもスラスラと言葉が出てくるものだ。
私も聞かれたら答えられるかもしれないけれど。
「あ、ああ。それだ。そんなに私はエミリアの事を話していたか?」
「はい。憎らしいほどリーゼロッテ姫に愛される謎のご令嬢だと聞いています」
「そうだな。それで、先日の話なのだが、リーゼロッテ姫に言われたのだ。エミリアと同じくらい、ルシオ様をお慕いしております。と」
「ごほっ。よ、良かったのではないですか?」
リオンは飲みかけの紅茶を吹き出し、頬を紅くさせていた。
恋愛なんて何も知らないだろうからな。
リオンには刺激が強すぎたかもしれない。
しかし、聞いてもらわねばならない。
「いや。良くないのだ。――同じくらいって、どっちが上だ?」
「さあ?」
「一番になりたい。だから、リーゼロッテ姫を傍で見守っていてくれないか? リオンと私は見た目が似ている。きっとリオンを見れば、リーゼロッテ姫は私を思い出すだろう。そしたら、私に会いたくなって月に一度の約束を倍にしたいと父親へ頼むかもしれないだろう?」
リオンは頭を抱えた後、真剣な顔で尋ねた。
「えっと、俺は何をしていたら良いのですか?」
「宮廷魔導師見習いなんてどうだ? あまり魔法が発展している国ではないが、だからこそ、自由に研究が出来るだろう。父は私が説得する。交渉なら任せてくれ」
「自由に研究が……」
「ああ。それから、毎日リーゼロッテ姫が何をしていたか、報告を忘れるなよ」
「ぇっ。……それ、本気ですか? 」
目を丸くしてリオンは驚いていた。
仕方ないことだ。リオンは経験が浅いのだ。
私の高尚な考えは理解できないだろう。
「ああ。本気だ。それから、何か新しい物を作ったら、一番に私に見せるんだぞ?」
「はい。善処します。ありがとうございます。ルシオ兄様」
やっとリオンの笑顔が見れた。
さて、父を説得に行くとするか。
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