ルシオとリーゼロッテ 5
それから、隣国の第二王女であるリーゼロッテ姫と婚約して一年が経った。
リーゼロッテ姫とは、月に一度しか会えない。リーゼロッテ姫の父である国王は彼女を溺愛していて、交渉を重ねてやっと半年に一度から月に一度会えるようになったところだった。
だから私は少しでも彼女との時間を増やすべく、外交の職に就いた。
それが意外と性に合っていて、いつの間にかドゥラノワの影の侵略者と呼ばれるようになっていた。
隣国とは、主にコールマン公爵と取引を行っている。リーゼロッテ姫が私への関心を高めるきっかけとなった女性、エミリアが、コールマン公爵子息と婚約しているからだ。
子息はオルフェオという青年で、リーゼロッテ姫に似て見目麗しい男だ。商才はさほど感じないが、彼との取引には利点が多い。
まず第一に、コールマン家に行く度にリーゼロッテ姫と会えるからだ。従兄とは便利なものだ。
それに、彼と取引を続けれていればリーゼロッテ姫と結婚した後も、彼女は友人のエミリアと会うことができるから。
しかし、二人で会える僅かな時間に、今日も彼女は私にエミリアの話をする。
二人でボートに乗っている時も。昼食をいただいている時も。
そのせいで、私は会ったこともないエミリアの些細な愛らしい仕草も好みの紅茶も菓子も色も知っている。
話を聞いている内に、エミリアへ好意を抱く反面、リーゼロッテ姫がエミリアに取られてしまうのではないかという不安が常に過る。
そして、そのエミリアの前でリーゼロッテ姫がどんな顔をしているのかが気になって仕方がないのだ。
帰りの馬車の中。城まで送り届ければリーゼロッテ姫とはお別れだ。
次の約束は一月後。その間、コールマン家に都合をつけて二度ほど行くので、昼食は共にすることが出来るが、丸一日独占できるのは来月だ。
しかし、エミリアとは少なくとも週に三日は茶会を開いているという。
狡い。一度でいいから、私もその場に邪魔することは出来ないだろうか。
「エミリアという女性に会ってみたいな。リーゼロッテ姫と――ん?」
リーゼロッテの顔から笑顔が消えていた。何故だ?
「駄目ですっ。絶対に」
「別に紹介してくれなくてもいい。エミリアと過ごすリーゼロッテ姫を遠目で見るだけでもいいのだ」
リーゼロッテは少し悩んだ後、首を横に振った。
「なりません。だって……」
「だって?」
「エミリアを好きになってしまいますわ」
「へ?」
「だってルシオ様ならエミリアに婚約者がいても、簡単に奪えますでしょう? そしたら、エミリアは隣国へ嫁いで、私は置いてきぼりで……」
「いやいや。話が発展しすぎていて……」
「私は親友とルシオ様、二人を失うことになるわ」
そう言ってリーゼロッテ姫はポロポロと大粒の涙を溢した。
「な、泣かないでくれ。私はエミリアにリーゼロッテ姫が取られるのじゃないかと不安で……」
「えっ?」
「ち、違う。今のは失言だ。リーゼロッテ姫。私は、貴女がどんな顔をしているのか見たかっただけだ。その大切な友人にしか見せない。貴女の顔を――すまない。また変なことを口走った」
「そ、そんなものありませんわっ。私はエミリアと同じくらい、ルシオ様をお慕いしております」
俯き涙を拭いながら、赤く染まった顔でリーゼロッテ姫は呟いた。
可愛すぎる。もう早くお嫁にきてくれないかな。
後二年も待つとか無理だ。
私はリーゼロッテ姫の隣に移動して抱きしめると、彼女は私の胸に頭を預けた。
このまま城に着かなければ良いのに。
きっとこの顔は、私しか知らないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます