ルシオとリーゼロッテ 3
座らずにいると、彼女は小首を傾げた後、座りやすいように少し席をずれてくれた。
そして、私のローブを見てハッとした。
ついに私の正体に気付いたか。
それとも、やっと気付いたふりをし始めたのか。
「あ。そのローブ。この国の方なのですね」
「はい……」
「お若いのにもう婚約者がいらっしゃるなんて凄いですわね」
「はい?」
「あら。ご存じないのですか? 今日は第二王子様の婚約者を選ぶための夜会なのですわ。ですから、男性の方は婚約されている方しか呼ばれません!」
「そうなのですね。知りませんでした」
この人はただのサボり姫だと確定した。
こんな得意顔で説明するのだから、私の事を知らないのだろう。
「あの。婚約者の方はどちらに?」
「まだ……その」
「いらしていないのですね。では、いらっしゃるまでお話を聞かせてくださいませんか? あの。婚約者がいるって、どのようなお気持ちですか?」
「へ? いや。別に……どうせ政略結婚ですから」
「ふーん。別に……ですわよね。それが現実ですのね。――私、これでも一応、隣国の第二王女ですの。ですから、婚約するなら他国の王子様になりそうで」
「嫌、なのですか?」
「ええ。私、国に大切な人がおりますの。だから国を離れたくないのですわ」
彼女は愛おしそうに目を細め、先程よりも繊細で儚げな笑みを溢した。
その視線の先にいるのは、その大切な人なのだろう。
それがどうして自分ではないのか、少し悔しく思えた。
「……その方とは結婚できないのですか?」
「ふふっ。勿論。エミリアは女性ですから」
「あ、そうですか。付きの者として連れてくることは出来ないのですか?」
「無理ね。なるべくずっと近くにいて欲しくて、従兄と婚約させたから、国を出られないわ。それに、仕えて欲しい訳ではないの。エミリアはとても素敵な女性だから、それ相応の立場で力を発揮していて欲しいの」
女性同士にも友情と言うものがあるのだと彼女の言葉から知り、何故だか安心した。誰もが相手より優位に立ちたいと願うものだと思っていたが、彼女は違うようだ。
「でしたら。隣国なら、マシなのではないですか?」
「え?」
「次に来る縁談が、遠い国とも限りません。ここなら、近いではないですか」
「そうね。貴方、天才だわ! でも、どうしましょう。私、王子様にご挨拶もしていないわ。こういうパーティーは苦手なの。皆さん目が怖くて」
「分かりますよ。私も苦手ですから」
「ふふっ。だからこんなところでお喋りしているんですものね。あの。……ちよっと狡いかもしれませんが、ここで出会った事も何かの縁ですわ。良かったら、王子様の事を教えていただけませんか?」
彼女は真剣な眼差しで私を見つめた。
友人の為に必死な様子が可愛らしい。
この人は、王子の何を知りたいのだろう。
それがとても知りたくなり、私は彼女の隣に腰を下ろした。
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