番外編
ルシオとリーゼロッテ 1
自分には誇れるものが何もない。
大国の第二王子という中途半端な存在の私には、国民から慕われ名将と崇められる兄と、魔法の才に長け天才と称される弟がいる。
しかし、私は兄の隣で剣を振るう力もなければ、弟と共に研究に身を投じる知識も魔力もない。私はせいぜい、近隣諸国の姫君と政略結婚するぐらいしか用途はないと思っていた。
だが、そんな私に存在意義を与えてくれた女性がいた。
それは私の婚約者のリーゼロッテ姫だ。
彼女と出会ったのは一年前。
その日は私の婚約者候補が集められ、城で夜会が開かれる日だった。一応、私の誕生パーティーという名目だが、陛下からは今夜選べと言われている。
三年前の兄の婚約者選びの日を思い出すと、憂鬱の一言しかでない。
「ルシオ兄様っ。今、お時間よろしいですか?」
二つ年下の弟は今年で十三歳。常に研究室に引きこもっているせいか、年の割には幼く見える可愛い弟だ。
「リオン。また何か面白い物を作ったのか?」
「このブレスレット、着けていてくれますか? 目印なんです」
「目印?」
見た目はただのシルバーブレスレット。
しかしこれも何かの魔法道具なのだろう。
リオンは新しい物を作ると、私で試すのだ。
「それを目印に転移魔法を使うんです! 前回作った水鏡は――」
瞳をキラキラ輝かせながら道具の説明が始まった。
こうなると止まらない。
何を言っているのか理解は出来ないが、リオンのしたいことは知っている。
魔法が使える人も使えない人も、幸せになれる魔法道具を作ることだ。魔法の楽しさや良さを一人でも多くの人に知って欲しいのだ。
「リオンは偉いな。好きな時に試してみなさい」
「はい! あの、お顔の色が優れないのですが、何かあったのですか?」
「また忘れているのか? 今日は夜会だ。あまり研究に没頭しすぎるなよ」
「夜会ということは、今日は兄様の誕生日……あぁ……」
リオンは頭を抱え右往左往し始めた。
小さい頃から毎年プレゼントをくれているリオン。
研究に没頭し初めてからも、数日遅れになっても必ず用意してくれている。昨年は中庭のガボゼにリオン特製のランタンを付けてくれた。
「気にするな。今年はこれをプレゼントとして有り難く受け取らせていただくよ。これがあればいつでもリオンに会えるのだろう?」
「はい。ですがもう少し良いものを……」
「気にするな。これを御守りにして、今日という日を切り抜けて見せるよ」
「素敵な出会いになると良いですね。きっと一目見た瞬間に、何か感じるものがあるのではないでしょうか?」
「だといいのだがな」
研究所に隠りっきりで世間知らずだからか、リオンは女性というものに幻想を抱いているのだと思う。
実際はそんな生易しいものではない。
意中の相手を射止める為に邪魔な令嬢のドレスにワインをかける女性や、堂々と言い合いや睨み合いを始める女性もいるというのに。
兄の時も、恐ろしい夜だった。
そして今宵も私の予想通り、女性達の熾烈な争いを見る羽目となった。
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