第30話 バトルおっさん
都市の南側から戦えない住民達を避難させる。
城門が静かに開くと急造した魔導連結トラックが音も無く入って来た。パッと見、貨物列車みたいだな。既に待機していたお年寄りや子供達がトラックの荷台に乗り込んでいく。一方で動ける者達が荷台から物資を降ろしていく。尽きかけていた矢弾の補給を行ったのだ。
しかし……最強のクランが来たからと言って、簡単にひっくり返せる状況ではない。50名程度で外壁の上から攻撃しても知れているからな。
その点、アリスの立てた策ならば少人数でも対抗出来る。
朝日が登る。都市は静寂に包まれていた。物音ひとつしない。
『 都市の4つの城門全てが開かれている 』
都市内には誰も残っていないかのように……
城門から都市中心へと続く大通りは動く物は何も無い。ひっそりと静まり返っている。
敵が警戒しながら門を通り抜け、都市内へと進行していく。しっかりと敵部隊を弓の射程に入れてから合図を出した。
一斉に伏兵が現れて矢を放ち敵部隊を攻撃した。
その後も敵は警戒して小隊を送り込んでくるだけだった。この程度の数なら残された人達だけでも迎撃出来る。
「タラオさん、東門と西門に敵が集結して突撃陣形を整えています」
来たか……ゴリ押しされるのが最も嫌な手だ。
「東の敵に味方が突撃しました!」
アリス達が陣形を整えつつあった敵の背後から強襲し、一気に東門を通り抜けて都市内を疾走して西門から外に出た。不意打ちを喰らった東の軍勢が慌ててアリス達の後を追ってくる。
「ここだ! 全力で潰せ!!」
待ち構えていた伏兵が侵入して来た敵を迎撃した。
「伏兵だ! 引け! 引け!」
混乱した敵軍が都市外へ戻ろうしているが……
そこにはシャルロット率いる魔法部隊が待ち構えていた。
いかにも黒魔術師という真っ黒のフード付きローブを纏ったシャルロットが木製の両手棍を天高く掲げた。
「チャージ……サンダーストーム」
シャルロットのタメ技、エクストラスキル『チャージ』から超特大の雷の嵐が広範囲に降り注ぐ。瞬く間に敵は丸焦げになっていく。味方さえもドン引きする威力だ。
普段、シャルロットが戦闘に参加しないのは生産要員だからではない。あまりに強すぎて他メンバーとバランスが取れないからだ。
敵は退路を断たれ、魔法の集中砲火を浴びて倒されていく。
進んでも伏兵、引いても伏兵だ。
西に突き進んだアリス達はそのまま敵軍に突撃していた。完全に不意を突かれた敵軍は陣形を乱してしまった。アリスが一気に敵将へと詰め寄り、一撃でその首を切り飛ばした。
「敵将、討ち取ったり!!」
金髪碧眼の美少女エルフが堂々と敵将を斬り伏せたのはインパクト大だ。敵の目がアリスに集中する。すぐに俺はアリス達の居る西門側へ多く伏兵を配置した。
アリス達が西門から戻って、都市に入り東門へと駆け抜けていく。その後を将を討たれて怒り狂ったオーク部隊が追いかけていく。
「放て」
絶好の的だな。俺の号令でオーク部隊に矢の雨が降り注ぐ。それでもアリス達を追おうとするが進めば進む程に兵の数を減らしていく。頭に血が登ると突進が止められないオークの悲しい習性だな。
北門の前には総大将の陣がある。都市内に伏兵が居るのは分かっているが、その規模が分からないのだろう。中々襲って来ない。
「賢いのが仇になるとはな……」
迷わず一斉に襲ってきたら、こちらは全滅していた。計略を恐れるあまり判断を誤ったな……
ただ城門を開いておいただけだ。
それだけの計略が敵の判断を鈍らせた。都市に入り込んだ敵は全滅した。そしてまた都市は空城のように静まり返っている。都市内に残っている者達は一斉に移動を開始した。
そして……
敵軍が一斉に都市内へと雪崩れ込んできた!
総攻撃を決断したらしいな……だがもう遅い。
そこに伏兵は居ない。敵の大軍はそのほとんどがスムーズに都市内へと入った。
だがこちらは外壁へと駆け登った後だ。
城門が次々に閉じられていく。
「放て」
外壁の上から矢と魔法が降り注ぐ。ただの矢ではない。火矢だ。火矢は油を仕掛けておいた建物に着火した。都市に爆発音が鳴り響く。
一気に燃え広がった炎は全てを焼き尽くしていく。だが退路は用意してある。
「東門だけ開いているぞ! そっちに引け!」
そう大声で叫んだのは俺だ。
その声を聞いた敵軍は東へと向かっていく。当然、アリス達の突撃隊とシャルロット魔法隊が待ち構えているけどな。
「少しでも敵を減らせ! よく狙って撃つんだ!」
もう残りの矢弾が少ない。火の海に包まれた敵は東門ばかり気にしているが外壁に登るという脱出法もある。それも俺が待ち構えているがな。
多少は登ってくるヤツもいるが数は少ない。
ただ生きるか死ぬかの戦いだ。
これで都市はほとんど焼失してしまう。何も残らないように思えるが命は残る。
厳しい戦いが幕を閉じた。
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