第29話 スタミナお姉さん

 予想と近い場所に敵の伏兵が現れた。人とオークの混成部隊のようだ。


「ここでオークか……クランメンバーは大丈夫だと思うが他の者には手強い相手だ」


 オークと言えば豚の顔をした体力自慢の魔物ね。


「焼くと美味しいらしいけど、どうなのかな?」


「オークを食べるのか?」


 タラオはとても驚いているけどラノベの定番だ。


「結構、そういう話多いよ。焼いてみましょう」


 これだけ戦闘が続くと食料の確保が大変だから試す価値ありそう。適当なオークを見繕って倒してみた。ゴブリンよりは強いと思う。

 

 サクッとオークを串刺しにして丘に戻り、テキパキと捌いていく。タラオは顔面蒼白になっているけど気にしない。食べなければ人は生きていけないの。


 戦闘を終えたメンバーが戻ってきたので一緒に焼肉パーティーをした。オークは巨体だから10人分の焼肉なんて楽に出来る。


「中々の美味ね。これは人気が出るわよ」


 今日の味付けは塩だけだからスパイスと焼肉のタレも欲しいわね。


 久しぶりに商売チャンスね。異世界焼肉無双よ!


 シャルロットに焼肉コンロを作ってもらおっと!


 シャルロットの喜びそうな物も確保しちゃったしオークってウハウハね!


「他の都市は計略が見抜けたでしょうか?」


 メンバーが心配そうに尋ねてきた。


「都市の外で迎撃可能なのはウチくらいかな。多分、防衛戦を選択していると思うわ」


 都市に籠城するのがベターな選択ね。都市外の農地は壊滅的な打撃を受けてしまうけど……

 オークを食料にすれば食料難は回避出来るかな。


 大迷宮都市は農地も守ったし、外壁も無傷だ。多くの農奴も確保しただろう。


 家に帰ってシャルロットと一緒に特製ミートボールを作った。


「オークのタマタマは強壮薬の原料ですからね。今日は凄いかもしれませんよ」


「もうシャルロットたら!」


 私とシャルロットはニヤニヤしながら料理を続けた。


「このミートボールは美味しいな。ひょっとして今日倒したオークの肉なのか?」


 解体現場を見て食欲を失ったタラオはオーク肉を食べていない。


「美味しいでしょ?」


「ふふふ、特製ですからね」


「ああ、これは人気が出そうだな。あのオークが食料か……異世界は怖いな」


 美味しいそうにミートボールを食べるタラオを私とシャルロットはニコニコと見守った。


 

 第2波の戦況が各都市から届き始めた。私の予想を裏切った結果が続々と届く。


 外壁で防衛戦はしたのだけど、退却する敵を深追いして十面埋伏の計に掛かってしまったのだ。


 多くの都市が大打撃を受けていた。


 珍しいタラオから冒険者ギルドに呼ばれた。そこには都市評議会議長の姿があった。


「わざわざ済まないね」


 議長と言っても元道具屋のおばさんなので、お互いに良く知っている仲だ。


「いえ、余程の事ですね?」


 タラオの所によく遊びに来ているのは知っていたけど、今回は遊びって雰囲気ではない。


「アンタのクランに依頼を出す事にしたよ。緊急で都市救援依頼さ。報酬はクランの拠点をここに作るってのでどうだい?」


 いずれはクラン単位の依頼が来るとはタラオから聞いていたし、報酬も聞いていた通りだ。でも、タラオの予測よりかなり早く物事は進行しているみたいね。


「既に各都市へ分散派遣しています。正式な依頼ではありませんが各都市の防衛に携わっているかと」


「知っとるよ。有難いことさね。全員呼び戻して事に当たっておくれ。もう打つ手が無いのさ」


 かなり深刻なダメージ受けた都市が完全に包囲されて陥落寸前の状況らしい。

 

 クラン単位の依頼は過去には無かった。これが初回という事だ。都市の代表から困難なクエストを提示され、それを達成する事によりクランの拠点を得られる『拠点クエスト』が発生した。


 タラオは断ってもペナルティーは無いと言った。タラオがそんな事を口にすると言う事はかなり達成困難な状況なのだろう。


 でも私はこのクエストを受ける事にした。


「勝機有りと見たわ。準備が整い次第出ます」


 目標都市近郊を集合地点とし、クラン『ワンダーランド』メンバーを全員招集した。


 事前情報通り、都市包囲されていた。総大将が居るらしき本陣が都市の正面にドッシリと布陣している。本陣の周りではゴブリン達がギャーギャーと騒いでいる。

 その他にも都市を取り囲むように10の陣幕がある。恐らく全ての伏兵をポップさせてしまったのだろう。そこはオーク達が固めていた。


「タラオ、中に入れそう?」


「日中は厳しいな。夜なら入れる」


「都市内に2人、クランメンバーが居るはずだから合流して指示を伝えて」


 タラオなら総大将の暗殺も可能だけど今回は駄目だ。この計略は敵の指揮官が居ないと使えない。


 まずは流言の計を試そう。あまり効果は期待出来ないけどやってみる価値はある。


『各都市からの大増援がここに押し寄せている』

『隣りの将が都市側と内通している』


 敵陣の中心はLVが高い人が多くて近づけないけど、雑兵に紛れる事は出来そうだ。


 日が沈む前に敵陣に動きがあった。南側の2つの部隊が城に向けて撤収して行ったのだ。自分達の城が落とされるのを警戒しての行動だ。これで僅かだが敵の包囲に隙が出来た。


 私達は南側に移動して夜を待った。タラオと隠密スキル持ちのメンバーが都市に潜入した。

 真夜中になり都市も敵軍も静寂に包めれていた。


「チャージ……アークスリープ」


 シャルロットが南側の敵軍に向けて超広範囲睡眠魔法を放った。




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