第26話 無双お姉さん

 朝日が登った時、敵の城は既に包囲されていた。何台あるのか分からない程の遠隔攻城兵器が城を取り囲んでいる。


「放て!!」


 前ギルドマスターの防衛隊長が発した号令により、凄まじい数の爆裂弾が敵城へと降り注いだ。敵の城が無残な姿に変わっていく。

 

「出てくるぞ! 弓隊! 魔法隊! 構え!!」


 敵城の城門が開けられて騎馬隊が出てきた。


「放て!!」


 矢と魔法で集中砲火を浴びた騎馬隊はこちらにほとんど近づけないまま沈んでいく。


 その様子を私達冒険者は大迷宮都市の城壁の上から見学していた。


「見事なものね。全く乱れがなく完璧だわ」


 皆、冷静に様子を見ている。騒いでいる者は1人もいない。ちょっとでも綻びがあればいつでも助けに行くつもりなのだ。


 敵城は1日も保たずに落城した。こちらの被害はゼロだ。都市の城壁に傷1つ付けられていない。


「これは練習。またすぐに襲ってくる可能性が高いわ。各自準備しておくのよ」


 私は姿を見せないタラオの代わりに冒険者達の気を引き締めた。


 タラオは夜に出ていた。恐らく敵将を仕留めて来たのだろう。今は第2波に備え寝ている。

 

 私はオフロードバイクで他都市の応援に行く。タラオが選抜した冒険者達と一緒に出る予定だ。レーサータイプで行けばすぐに着くけど、戦時に道路を走るのは危険だ。迂回は必要だけどそんなに時間は掛からない。


 続々と各都市からの情報が入ってくる。やはり対人戦を熱心に訓練していた都市の成果は良い。

 でもここみたいに落城までさせた都市は無い。


 要因として攻城兵器の質の差がある。


 大迷宮都市は冒険者のLVだけではなく、職人のLVも高い。飛距離、威力、命中精度等全てにおいて最高水準の兵器をここは使用している。

 勿論、訓練量も全然違う。ゴブリンのスタンピード以来ずっと訓練してきた結果が出た形だ。


 

 出撃の日。タラオとシャルロットが見送ってくれた。


「アリス。相手は湧いた。人と思うな。人の皮被った悪魔だと思え。少しでも隙を見せればお前が殺されるぞ」


 湧いたという事はプレイヤーの可能性は無い。システム側だとタラオは言いたいのだろう。


「例えプレイヤーでも迷わず殺すわ。私達は宣戦布告されているのだから」


「アリスさん。ご飯を作って待ってますね」


 シャルロットが心配そうに見つめてくる。


「タラオから『テッサロサ』で最も怖いのは人だとずっと聞かされてきたから覚悟は出来てる」


 まさか平和な日本で育った私が戦争に行くなんて思いもしなかったけど……


 命を救う為に医師を目指した私が……


 悲しいけどこれが戦争だ。


 パーティーメンバー全員がオフロードバイクに乗って救援へと向かう。

 道中は私が索敵しながら先頭を進んだ。


 伏兵は居ない!


 全速力で目的地に向かうと戦闘をしている音が聞こえてきた。


 少し離れた所から様子を見ると、都市の城壁に取り付かれているみたいだ。都市内への侵入は何とか防いでいる様に見える。激しい戦闘が城壁の上で繰り広げられていた。


「まだ何とか耐えているみたいね」


 敵の布陣をじっくりと観察して目標を定めた。


「目標。敵大将! 一気に駆け抜けて仕留める!」


 敵は完全に城壁しか見ていない。背後から急速接近して敵将らしき騎馬隊へと突撃した。


 魔導バイクは兵器としても優秀だ。僅かなモーター音しかしないので馬に比べると敵に接近を悟られない。


 私はバイクから飛び降りて敵将を槍で貫いた!


 私のジョブは『ホーリーランサー』だ。私に続いてパーティーメンバー達も戦闘に加わり、私が先頭の突撃陣形で敵軍をズタズタに切り崩した。さすがタラオが選抜しメンバーだ。私のスピードに何とか合わせてくれる。

 魔法使いのメンバーが攻城兵器を破壊していく。私も梯子を次々にぶち壊した。

 敵は突然、背後から強襲されて大混乱に陥っている。しかも初撃で将を失っているから立て直すのは至難の技だ。

 攻城兵器を破壊し、戦線を立て直そうとしているリーダー格狙いへと切り替えた。敵は更に混乱していく。


 こちらはたったの6人しかいない。


 都市を取り囲む程の兵力がほとんど抵抗出来ずに屠られていく。


「このまま敵城へ向かう!」


 勢いをそのままに敵城へと向かった。城門は開けられたままだ。戦力はそんなに残していないだろう。すぐに城を制圧して城門を閉じた。


 さてと……


 私は奪い取った敵城の城壁に登り、呆然としている敵軍を見下ろした。


「投降するか、ここで死ぬか選びなさい」


 1パーティーで戦線を切り裂き、圧倒的な力の差を見せつけた。攻城兵器を失い、退路を断たれ、指揮官も居ない。もう勝敗は決している。


 敵軍は完全に動きを止めて降伏した。


 武装解除を見守りながら都市へと向かった。そこには多くの負傷者が居る。


 本当の仕事はここからね。


 







 


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