第24話 超天才管理者

 ちょっとだけ飲み過ぎた私だったけど、すぐに復活した。とはいえ何もやる気がしない。

 カッコいいお兄さんが沢山いる夜の店に行きたいけど……今は諸事情により営業していない。


 この事は私の精神衛生上、とても良くない。


 私から夜の街を取り上げるなんて……


「何かまたイライラして来た……またやろうかな」


「アドミニストレータ。VR(バーチャルリアル)に慣れてもらう為に初心者向けVRソフトを作ってみました」


「う〜ん……酔うから嫌なんだよね……」


 酔うのはお酒だけで十分だね。


「イケメン倶楽部(仮)というソフトです。アドミニストレータ御用達のお店が擬似体験出来ます」


「ムムム!? それはやってみてもいいかな! さすがフグミンね!」


 私は押し入れの1番奥にゴミのように仕舞い込んでいたVRシステムを取り出して装着した。


「グフフ……いいじゃない、いいじゃない」


「有難う御座います」


「エヘヘ……さすが私ね。モテモテだわ……」


 でも、所詮は擬似体験だね。肝心なお酒は飲んだフリしか出来ないのだ。これではあまり気分が良くならない。


 そう思った瞬間! 超天才的な発想が浮かんだ!


 本当のお酒を準備しておけばいいのだ!


「フグミ〜ン。私が用意するお酒とVRのお酒を合わせて頂戴」


 私がお店で飲んでいるのは『海崎12年』なのにVRの画面上では『ヘネジー』だったのだ。


「了解しました」


 私は早速、愛飲している国産ウイスキー『海崎12年』と氷セットを用意した。自分で用意しないといけないのは残念だけど、そこは諦めるしかない。せっせと水割りを作り、再びVRシステムを装着した。


「エヘヘ……これはイイ。売れるわよ」


「まだ試作段階です。もっとイイ事が出来る様に工夫します」


「イイ事? もうフグミンやだわ〜〜 私って超絶ウブなのよ〜〜 イイ事なんて分かんな〜い グヘヘ 是非お願いします!!!!」


 でもお酒が秒で無くなるので何度もVRシステムを脱着しないといけない。


「VRシステムと現実世界の物の配置を同じにすればいいのかな」


「微調整は必要かもしれませんが可能です」


 VRでグラスを持ったら本当にグラスを持った感触があった。


「お! 上手くいったわ! さすがね!」


 それから私は何度もフグミンと微調整を繰り返した。その結果、VRシステムを装着したままで実生活が可能なレベルまでへと到達した。


 と言っても自宅の中だけだ。


 私の家には常にイケメンが揃っているのでハーレム状態だ。


「でもコレってさ〜 フグミンだから出来るんじゃない? 据置ゲーム機で可能なの?」


 何と言ってもフグミンは元世界第2位のスーパーコンピューターだ。しかも最新のAIシステムを搭載している。


「将来的には可能です」


 やっぱり超天才の私に時代がついて来るのは難しいらしい。


 すっかりイケメン倶楽部(仮)に夢中になっていたけど、なんか他にもやる事があった気がする。

 でも、私はまずイケメンを充実させないといけない。


 イケメンコレクションを構築しなければならないのだ!


 そこで私は超望遠高性能カメラを購入して風景写真の撮影に励んだ。正確にはイケメンが写ってしまっている風景写真ね。その写真データをフグミンに渡せばイケメンが私の家に増えるって仕組みだ。

 1時間の撮影で中々のコレクションが完成した。


 それから日課である酒屋さん訪問だ。決して酒屋のお兄さんが超イケメンだからという理由ではない。毎日買っていれば誘ってくれるかもとか期待している訳でもない。お酒が盗まれる事件がよく起こるから仕方がないのだ。

 海崎の12年とサブローズモルトのウイスキーを購入した。更にモナモナエールの6本パックも必要だ。これで何とか午前中は耐えれるだろう。

 夜のお店がやってないからお酒の消費が激しい。ネットで購入した方がいいと思うかもしれないけど私は酒屋で買うのが好きだ。イケメンのお兄さんともお話し可能だからね。


「今日は天酒のしぼりたて生原酒が入ってますよ」


「あらいいわね。3本程貰おうかしら」


 天酒は入手困難なレア酒だけど、超常連で美人の私なら数量制限無しで購入可能だ。通常はお1人様1本限りね。


 さすがに買い込みすぎたかな。ちょっと1回では運び込めない量だ。パリコレモデルと比肩すると評される細ボディーではとても持てない重さだ。これは2往復は覚悟しないといけないね。


 〜 1往復目 〜

 

 私はヒョイっと日本酒6本(全て1升瓶)を抱えてマンションへと向かった。3本しか買わない予定だったけど苦境に喘ぐ酒屋さんを支援すべく、『六平次』のうすにごり、『愚夫』の愛山、更に超大好きな『大左衛門』の雄町を購入したから増えてしまったのだ。


 マンションに着くと救急車が停まっていた。

 心配になった私は必死に覗き込んだ。マンションオーナーとして住民に何かあったかと心配だったのだ。決して野次馬根性ではない。

 

 あれは701室に住む某有名大学医学部に通う美人女子大生ね。親が開業医やっててお金持ちだ。


 なぜそんな情報を私が持っているかって? 決して個人情報を不正に入手した訳ではない。心配性の私がマンション管理会社の情報管理体制をチェックしてあげたら、たまたまマンション住民の情報が手に入ってしまったのだ。フグミン相手ではザルと言える状態管理体制だったので厳重に抗議しておいた。

 

 私が経営するこのマンションは単身者向けの高級マンションだ。管理会社にはイケメン以外は入居不可にしろと要求したけど認められなかった。


 納得がいかぬ……


 女子大生は意識不明のようだ。親が家賃を払っているだろうから不払いの心配は要らないね。


 私は心配性だからね!

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