第13話 ギルマスおっさん
「エクストラスキル『派遣』を習得しました」
突然、頭の中に言葉が浮かんだ。
全く意味が分からん……
その言葉で目が覚めると部屋の片隅に酒樽が1個置いてあった。腰には見覚えのないポーチを装備しているしな……
これはお得意の裏パッチだな。
『テッサロサ』の開発者はこの手口をよく使ってミスを誤魔化そうとする。多分、俺がアリスに比べて成長が遅いのに関連しているな。
アリスに鑑定を頼みに行く。
「起きたらを杖を抱えていたんだけど……」
「私なんて糸車ですよ」
アリスはMP回復(小)が付与されている魔術師用の短い木の杖、シャルロットは裁縫師用が糸を作るのに使う大きな糸車を貰っていた。俺のポーチはマジックポーチで収納(小)の効果が付与された物だった。酒樽を貰ったのは俺だけで中にはエールが入っているようだ。何かしらの効果が付与されているような気がするが鑑定では分からなかった。
アリスはエキストラスキル『支援』を得ていた。アリスの使うバフ(強化スキル・強化魔法)が2倍の効果になるぶっ壊れ性能のスキルだ。
シャルロットはエキストラスキル『チャージ』を得た。シャルロットが次に使うスキル・魔法が2倍の効果になる。同じくぶっ壊れ性能と言っていいだろう。
俺の得たエキストラスキル『派遣』はかなり特殊だ。俺の責任において派遣した人達が経験値アップとスキル上昇率アップの効果を得るそうだ。これだけだと俺には直接の利点が無いのだが、派遣した人達の活躍に応じて俺まで経験値とスキルアップする効果がある。これまたぶっ壊れと言えるな。
大奮発だ……余程の事があったんだろう。こんなのを貰ったら文句も言えん。
「アリスとシャルロットを冒険者ギルドから商業ギルドへと派遣したって事にしてみるか」
上手くいけばアリスとシャルロットの活動全てに俺のスキル『派遣』の効果が期待出来る。
「もしスキルの効果があったらまさしくぶっ壊れスキルね」
「ああ。エキストラスキルは絶対に他言するなよ」
善は急げだ。新町長に面会して即、ギルドマスターにしてもらおう。
「アンタがギルマスになるような男とは思っていなかったけど化けたね。良い奥さんを貰ったおかげかね」
村人である俺は昔からこの村にいるって設定だ。俺は道具屋のおばちゃんがどんな人かはアリスから聞いた程度しか知らない。
「事情があってな。これからは本気を出すつもりなんだがちと急ぐんだ。すぐにギルマスをやりたい」
「今まで本気じゃなかったって事かい?」
新町長が俺の事ジッと見つめた。何か探っている感じがするな。アリスが俺を鑑定している時と同じ感じだ。
「なるほど……変わったスキルを持っているね」
やはり鑑定されたか……エキストラスキルの事はなるべく極秘にしたいんだがな。
「今日から就任出来るようにしよう。それとコレは就任祝いだよ」
そう言って新町長が指輪と書物をくれた。
「指輪は隠蔽の魔法が付与されているよ。アンタのスキルは隠した方がいい。書物は鑑定のスキル書だ。ギルマスが物の価値が分からんと困るからね」
ほう……まさかこんな形で欲しい物が手に入るとはな。クエスト報酬か? 鑑定スキルを使われると持ちスキルがバレてしまう。隠蔽の指輪はスキルを隠せるので絶対に欲しかったアイテムだ。
ギルマスになると鑑定スキルが貰えるのは知っていた。アリスも貰えるはずだ。
「指輪をもう2個貰えないか?」
アリスとシャルロットの分も是非欲しい。
「コレはかなり貴重品だからね……レシピと素材を渡すから奥さんに作らせな。完成品を見せに来るように言っといておくれ。後、コレは決して安売りするんじゃないよ」
言ってみるもんだな。クエストを受注したって事かもしれんな。
「極秘だったけどギルマスになるなら伝えないといけないね。冒険者ギルドの裏手にダンジョンが出来るよ」
「ほう……やはり迷宮都市になるのか」
「気付いていたのかい。この村は商業とダンジョンの都市に生まれ変わるよ」
新町長と一緒に冒険者ギルドへと行き、ギルドマスターの簡単な引き継ぎを行った。
元のギルマスは有力な冒険者だ。まだまだ活躍して欲しい。冒険者ギルドから新町長の護衛として派遣する事を提案した。
先手必勝だ。
破格の条件で交渉をまとめた。突然クビになった元ギルマスは今までの給金よりも高い収入が得られるのでホクホク顔だ。一方で新町長は苦い顔をしている。恐らく俺が提案しなくても元ギルマスを雇うつもりだったのだろう。
「これからも良い人材をそっちに回す。ウィンウィンだろ?」
「悪くない話だね……人材を得られるのは大きい……しかしアンタを舐めていたよ。アリスを動かしていたのはアンタかい? 認識を改める必要があるね」
あくまで冒険者ギルドから派遣するって形だから俺の影響力はどんどん増していく。
これから迷宮都市の人口は増える。多くの冒険者が集まってくるし、商業も盛んになる。
スタートダッシュに成功したな。
俺は冒険者ギルドのギルドマスターとして冒険者を育成する。そこから厳選した人材を町長へと送り込んで都市の防衛隊を編成してもらう。
さあこれからが本番だ。
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