第11話 料理お姉さん

 ゲーム『テッサロサ』の世界へ来てから6ヶ月程の月日が流れた。

 あまりに厳しい生活で忘れていたけれど現実世界に帰る方法を探さないと……ゲームをクリアすれば元の世界へ帰れるっていうのが定番ね。

 『テッサロサ』をプレイしていたタラオはノーマルモードしかクリアしていないそうだ。ハードモードはクリアするのが難しく、限られたごく一部のプレイヤーしかクリア出来ないらしい。

 ノーマルモードは魔王を倒せばクリアで、ハードモードは邪神を倒せばクリア。エクストラハードモードは邪神より強敵って事ね。


「まずは魔王討伐だな。それから邪神討伐になる」


 タラオに元の世界に戻る為にクリアをしたいと伝えたらそう言われた。

 魔王討伐後に天界への道が開き、天界を占領した邪神を討伐した後に次の道が多分開く。これがタラオの推察だ。


 現在、私達の住む村で行われているバージョンアップが終わると各地にダンジョンが形成される。その時に魔王が居るダンジョンも何処かに形成されるらしい。


 まずは魔王討伐ね!!


 

 村に大量の物資が運び込まれて建築工事が行われている。そんな中、私が働いている道具屋の店主から新しい仕事について相談があった。


「柄でもないんだけど新しい都市の町長に選ばれてね。まあほとんどアンタのおかげなんだけどさ。私としては信頼出来るアンタに商業ギルドと治療ギルドを任せたいと思っているんだよ。どうだい?」


「私がですか……私は冒険者として頑張らないといけないんです」


 魔王討伐が今の目標。余計な事に構っている時間は無いのよね。


「アンタの旦那には冒険者ギルドを任せたいんだよ。旦那の冒険者としての実績は飛び抜けているからね。アンタが冒険者として何をしたいのかは知らないけど、村の発展に尽力する事は悪い事では無いよ? 断る前に旦那と相談してみな」


 道具屋のおばさんが新町長ね……かなりのやり手なのは分かっていたけどちょっと意外だわ。

 タラオはソロ志向の人だから冒険者ギルドのギルドマスターなんてやるとは思えない。ギルドマスターは有力な元冒険者がやるのが定番だしね。

 タラオに新町長からの話を伝えた。


「道具屋が町長か……商業都市になるな」


 タラオはそう言ってしばらく考え込んだ。


「アリスがゲームクリアを最速でしたいなら話を受けた方がいいな。ボチボチでいいなら断るが……」


 村の発展と共に周りのダンジョンも発展するらしく、強くなるには村も発展させないといけないそうだ。誰かが村を発展させてくれるの待っていてもいいんだけど……それでは他力本願だし、いつになるかも分からない。


「早く元の世界に戻りたいって気持ちが日毎に増しているの……帰るにはタラオの協力が欠かせないわ。お願いしても良いかしら?」


「今までは生活するのに必死だったが、これからは元の世界へ戻る事を目標に切り替えよう」


 タラオは快諾してくれた。ちょっと意外だったな。シャルロットを連れてきてからタラオの様子がおかしかったから……


「あの……私をギルドで雇ってくれませんか? あまり戦闘が好きになれなくて……」


 シャルロットは魔物が怖いみたい。血だらけで魔物と殺し合うのが好きな人はあまり居ないよね。


「俺達には元の世界に戻るという目標がある。君もだろ?」


「戻りたいです……」


「なら協力してくれ。転生前の知識を使えばこの村の発展に貢献出来る。戦闘が嫌なら生産職を極めるのもいい。ギルド職員ではちと物足りない。俺も協力するから生産職をやってみないか?」


 タラオがシャルロットに協力する事は今まで無かった。これが初めてだ。


「タラオさん……いいんですか?」


「ああ。だが生産職といっても自分の身を守るだけの力は必要だぞ? 君も美人だから狙われやすい」


 シャルロットは前世で有名ホテルで働くホテルウーマンだったそうだ。シャルロットが自分の前世を話しくれた事は今まで無かった。


「私の知識を活かすなら宿屋の運営でしょうか」


 シャルロットは自分でも役に立ってる事があるのが分かって少し声に張りが出た感じね。


「宿屋なら調理スキルが重要だな。この世界に無い料理を出せば儲かるかもな」


「それってラノベの定番ね。商業ギルド直轄の宿屋として運営すれば良くないかな?」


「得た権限を最大限利用していくのがクリアへの近道だ。宿屋が評判になれば質の高い冒険者が集まりやすくなるかもしれない」


 そういう考えもあるのね……タラオと私だけが強くなってもクリアは出来ない。多くの仲間が必要になる。タラオから聞いた話だとハードモードのクリアにはトッププレイヤー18名が必須だったらしい。

 

 村の発展は間接的だけどクリアに近づくのね。


 さっそく新町長にタラオと私が申し出を受ける事を伝え、宿屋の件も頼んでみた。


 私とシャルロットで今までにない料理を出すと説明したら作ってみろと言われた。


 定番の異世界料理『ハンバーグ』を作ってみた。露店で食べれるのは素朴な串焼きくらいしかない。


「美味いね……他にも色々あるって言ったね。こりゃ儲かるわ……私が出資するからやってみな」


 新町長の出資まで得る事が出来た。すぐに商業ギルドと治療ギルド、宿屋の建設が始まるとの事で私とシャルロットは建設段階から携わる事になった。


 シャルロットは徐々に元気が出てきたみたいで安心した。自分の宿が持てるなんて夢みたいだ言っている。現実世界では困難な事がゲーム世界では出来る。それがゲームの最大の魅力だからね。


「ゲームは『あつまれお魚の海』しかやった事が無かったんです」


 シャルロットの持ちスキルは『釣り』と『採取』、固有スキルの『黒魔術』。魔法は対象を眠らせる『スリープ』を持っていた。


「現実世界では有り得ない体験がここでは出来るんですね……」


 シャルロットが呟いた何気ないひと言の意味に気付くまでにそんなに時間は掛からなかった。

 







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る