第9話 BLお姉さん

 この世界にはまだ国が無い。どう考えても小さな村だけでは今の生活を継続出来ない。店に売られている品物の中には村で作れない物が多い。タラオにその事を聞いたら、定期的に絶対中立都市(タラオはシステムと呼ぶ)から村に物資が運ばれていると教えてくれた。


 『テッサロサ』の序盤は村で活躍する事が大事らしい。そうすると村が発展して都市になる。都市から王が現れたりする。王政や民主政治など様々に分かれ、独自の発展をする。全てはプレイヤー次第だがモブ(非プレイヤー)にも個性があるのでモブが王の国も出来るそうだ。


「アリスの村に対する貢献度はかなり高い。何かしらの役職を選べる可能性があるな」


「え……そんなのやりたくないけど」


 生産系のスキルが良く伸びる影響でかなり村民達から頼られている。医者の真似事をする事もある。

 村に対する貢献に応じて様々な道を選択出来るのが『テッサロサ』の初期段階。村長、冒険者ギルド長なんかが村の有力者。モンスター狩り中心のタラオだと自警団長くらいにはなれそう。

 ゲーム知識のあるタラオとラノベ知識のある私は他の村人に比べるとかなり活躍している。


 どう考えてもモブより異世界のプレイヤーの方が有利。ただ、モブとプレイヤーの見分けは難しい。明らかに異世界の知識を用いている人はプレイヤーなのは間違いないけど、この村にはそんな感じの人はいない。


 しかし、警戒は怠れない。プレイヤーは危険。プレイヤーがいない村でプレイする方が有利なのに、敢えて挑んでくるプレイヤーもいるそうだ。


「私達はプレイヤー同士で組んでいるから相乗効果で更に有利ね?」


「プレイヤー同士でチームを組んで1つの村で始める人もいるから、そこまで有利とは言えないな」


 チームで複数の村を確保する事も可能ね。


「そろそろ村が拡大し始める頃だと思う。この村は有望だぞ。まあ、アリスおかげだがな」


 医療行為と薬品や魔道具作りの貢献が高いのは分かる。ここで暮らし始めた時より明らかに村の状況は良くなっている。でも、私達の生活を支えてきたのはタラオだ。

 生活魔法とパンイチがなければとても苦しい生活だっただろう。そして持ち家の存在が大きい。


「家の増改築はまだまだだ。これでは冬が厳しい」


 広くはないけど私の個室とタラオの個室は出来上がっている。

 この世界には日本と同じく四季があるそうだ。今は初夏で過ごしやすいけど、冬は確かに厳しそうだ。元ボロ小屋なので隙間も多い。

 タラオはモンスター退治より家の増改築が好きになってしまった。木工スキルのLV上げるのに熱中しているみたいね。最近はあれ程嫌だと言っていた料理まで始めた。


「タラオは凄いね……こんな生活に文句も言わずに前向きで……ここの運営」


「待て」


 タラオは優しいので少しくらいなら愚痴ってもいいかなっと思ったら、私の目を見つめて首を左右に振った。そして、何かコソコソと羊皮紙に文字を書いている。


「周りから見えないようにして読んでくれ」


 そこにはこう書かれていた。


『運営の批判は絶対にするな。逆ギレする』


 そしてこう言った。


「序盤が厳しい訳はそれだと言われている」


 何それ……


 サービス開始直後の『テッサロサ』ノーマルモードは簡単すぎると批判が凄かったそうだ。そしたらお金を稼ぐのが急に難しくなり、生活を維持するだけで精一杯になったらしい。

 ただ難しいだけなら誰もついて来ないけど、絶妙なバランスになったらしく、ゲーマー心を刺激して人気が出るきっかけになったみたい。


「俺はゲームだと思って楽しむ事にした」


「切り替えていくしか無さそう……」


 現実世界では出来ない事がここなら出来る。そう思えば楽しく暮らす事もできるかな……


 例えば恋愛とか……


 タラオは名前はあれだけどかなりイケメン。自分の事をおっさんと言うけど、ここでは私と同じ20歳。結構、優しいし真面目な性格。有りかな?

 でもタラオって女性に興味が無いんじゃないかと思うんだよね……

 だって金髪碧眼の美少女エルフの私が一緒に暮らしているのに、全く女性として見られていないのが分かる。


「ねえ、タラオってBL好き?」


「はぁ? そんなの好きなヤツいるのか?」


「私は好きだけど……」


 BL物にハマってたんだよね。タラオの反応は嫌っている感じだった。これからも協力して暮らしていきたいし、変に恋愛関係になるより今の距離感で続けていった方が良いのかな……

 

 私達は衣食住を充実させながら、それぞれのやりたい事をしている。

 そんな中、タラオのスキル『パンイチ』がLV4になった。最初に出たのは表面がサクサクのメロンパンでバターの風味が心地良くて、とても美味しかった。村には甘い食べ物があまり無いから嫌いだったあんぱんも美味しい。ちなみに一緒に出てきた飲み物はビールじゃなくて栄養飲料だった。タラオは愛飲しているらしく大喜び。


「これで24時間戦える」


 ちょっとタラオの言っている事は分からないけど、実は私もたまに飲むんだよね。




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