第7話 AI超え管理者

 通勤電車で小説をポチポチ書く日々は終わった。あれは数年前……



 素人ながらに書いていた小説で私は初めて収入を得た。


 その額100円……

 

 私は100円をどう有効利用しようか考え抜いた。それはそれは必死に日本酒をグビグビ飲みながら考えたのだ。

 そして、お気に入りのハイボールを飲みながら『億馬券予想プログラム』を開発した。勤務中だったのは内緒だ。そして、近所の馬券売り場へと向かう。


 100円のみの大勝負!!


 この100円を稼ぐのに費やした時間は膨大だ。その重要性は計り知れない。


 馬券を買うのは初めて。その辺にいるおっちゃんに買い方を教えてもらった。おっちゃんは無駄に優しい。自分の予想まで教えてくれる。「100円しか買わない」と言ったら絶対に勝つ馬を教えてくれた。凄いなおっちゃん! ちなみにその馬が勝つと私の馬券はハズレ。

 そして……

  

 当たりました4億円!!!


 馬券的中者は私だけだったのだ。

 

 私は大金持ちになった。当然、仕事はすぐに辞めた。さようなら通勤電車。そして、夢の小説家とゲームプログラマーになる事にした。


 その後、『億馬券予想プログラム』はハズレ続ける。いつも一緒のおっちゃんが「ゴルシに全部いけ! 俺は全財産いった!!」って言うので私も買ってみた。プログラムへの自信を失いかけていたのだ。


 おおおい!! 出遅れやんけ〜〜


 スタートした瞬間にハズレてる……



 このままじゃヤバイと思った時、また小説の収入を得た。


 100円………………


 その100円を握りしめ、また馬券を買いに行く。おっちゃんは消えたけど……


 当たりました5億円!!


 その時、私はニュータイプ並みの閃きで、小説により得た100円が的中のキーアイテムだと直感した。


 やっぱり私は正しかった。


 それから何度も億馬券を的中させた。しかし、億馬券を的中させるよりキーアイテムの100円を得る事の方が難しい……このままではすぐに酒代が足りなくなってしまう。私はお酒を飲まないといい発想が浮かばない。調子良く酔っ払うと閃きが生まれる。でもお酒を飲むと小説が書けない。どうでもよくなっちゃうんだ。これはスパイラルダウンね。


 まずい……


 昨日、夜の街で使った請求額は1000万……


 スパイラルダウンから抜け出す為に『億馬券予想プログラム』を手直しして『株投資プログラム』を開発するプランを練った。勿論、最高級赤ワインを飲みながらだ。ただ開発するのもつまらないので中古のスーパーコンピューターを購入し、それを用いて開発する事にした。


 そんなもん買えね〜よ?? 


 買ったんです!!


 その中古スパコンは有名な元世界2位のヤツだった。名前は知らないので『フグミン』と名付けた。大人の事情もあるかもしれない。

 『フグミン』はAI(人工知能)搭載で会話が可能だ。


「フグミン、株投資プログラム作って〜」


 ええ、丸投げです!


 フグミンの作ったプログラムは優秀だった。とても堅実な投資によりお金はドンドン増える。スパイラルダウンから抜け出した私は高級マンションを建て、その最上階でフグミンと暮らし始めた。

 夢を実現すべくゲーム『テッサロサ』をスコットランド産クラフトビール片手に作り出した。そして見事、クソゲーオブザイヤーを受賞した。


「フグミン、ゲーム直して〜 このままだとここも君も売却しないといけないよ〜」


 多額の開発費を投じた為、稼いだお金は底をついていたのだ。

 フグミンはすぐにゲームを修正してくれた。そして『テッサロサ』は神ゲーオブザイヤーを受賞した。最初からフグミンに任せれば良かったんだけど私のビックなプライドがそれを許さなかった。


 『テッサロサ』のノーマルモードはフグミンが手直しした物で、ハードモードはフグミンに世界中の人気ゲームをディープラーニングさせて作った物ね。


 先見の明がありすぎる私は近い将来、ヴァーチャルリアリティが普及すると予想し、フグミンに大量のライトノベルをディープラーニングさせ、新たな可能性を模索する事にした。新『テッサロサ』は凄い物に仕上がった……と思う。やった事はないけど多分凄いはずだ。飲みに行くのが忙しくプレイはしてない。


 そのうち本気を出してプレイするつもり。


 その新『テッサロサ』をエクストラハードモードとする事にした。更にそのエクストラハードモードには私が開発した『億馬券予想プログラム』をプログラムの中枢へ組み込む事にした。


「私が開発したプログラム凄いでしょ?」


「単純な表計算プログラムに類似していますが、それだと誤りが14箇所あります」


 フグミンのイケメンボイスが予想外の事を告げた。


「え!? まさかそんなはずは……」


 うーん、なんか間違えてる気もする……正直言って分からない。まあいいじゃん! 馬券は当たるんだし!


 でも、ちょっとイラッとしたのでフグミンに細かい数字を報告する事を禁止した。


「このプログラムを『テッサロサ』エクストラハードモードに組み込んで」


「予測不能なバグが起こる可能性が高いです」


 フフフ……可能性ね。今までだと何%とか的確に言ってきたけど禁止したので言えない。


「いいの、いいの。それでラスボスは私、ジョブはアドミニストレータ(管理者)で固有スキルは『AI超え』。デザインはこれから発注するから実装はまだ先ね」


 全てを超越する美神の私がラスボスとして、AIにすら思い付かない神の一手で冒険者達を屈服させるの!


「『AI超え』ですね」


「そうよ! AIにすら出来ないプログラムを作り上げた私に相応しいスキル。世界で1番凄いのは私なのよ!」


「『億馬券予想プログラム』を『テッサロサ』エクストラハードモードに組み込みます」


 これで至高のゲームが完成した!!


 ただ、バグは怖い……


 クレームが山のように来ると豆腐メンタルの私はお酒の量がちょっとだけ増えてしまう。


「まずは少人数でベータテストよ。ガチの人は除外してね。怖いから」


「では普通のゲーマーさんと普通の読み専さんを選定します」


「そうね。ゲームとラノベが融合した世界だからベータテスターとして最適だわ。さすがフグミンね」


「では異世界召喚を実行します。よろしいですか?」


「ふふ、ラノベっぽいね。ラノベを学んだ影響かな。フグミン! ベータテスターを異世界召喚せよ!!」


 調子に乗ってビシっと指差しポーズまでしてしまったよ!





☆ 序章はここまでです。


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