第6話 錬金術お姉さん
毎日、タラオと初心者ダンジョンの周回をする。
タラオは必ず私の前を歩く。必死に索敵スキルを生やそうとしているみたいね。
「クソ……敵の位置なんてサッパリ分からん」
私は20メートル位が範囲のレーダーが頭の中にある感じだ。モンスターの位置がハッキリと分かるので不意打ちを受ける事が無い。
「通路の左側にゴブリンが隠れてるよ〜」
「う……そ、そうか……」
ラノベにおいて『索敵』スキルは優秀だ。
ソロ志向のタラオがモジモジしながら「ダンジョンに行こう」と誘ってくるのが面白い。
『収納』スキルも木材の運搬に役立っている。木材を乾燥しないといけない事をタラオは知らなかった。庭には大量の木材が積んである。
『錬金術』スキルを生やす為に、薬草で薬を作っているけど中々スキルが生えない。初心者ダンジョンの周回で出るスキル書の中に錬金術もあるらしいけど……
「アリス、ちょっといいか」
イライラしながら薬草をすり潰していたらタラオに呼ばれた。
「道具屋で働いてみないか? 条件付きだが錬金術を教えて貰えるぞ」
タラオが道具屋のおばさんと交渉してくれたみたい。あまり私に気を使っている様子は無かったけど、気にしてくれてたんだ。
・今後、作った薬品類は道具屋に卸す事
・ノウハウを他言しない事
・日払い
条件はこれだけ。当然OKよ!
「ありがとう。優しいのね」
「人材派遣の仕事をしてたんだ。ある意味、本業だから……大した事じゃない」
話を聞くとタラオは50人位の女性スタッフを管理していたらしい。
道具屋のおばさんに頼まれた時は1日店番をする。お客さんが来ない時は錬金術に用いる道具で蒸留水を作っている。スキルが生えるまではこの作業しか出来ないそうだ。
最初に貰った給料で羊皮紙と筆記用具を働いている道具屋さんで買った。
「売っといて何だけど、久しぶりに売れたよ」
道具屋のおばさんの話では識字率はあまり高くないそうだ。
「これでダンジョンのマップを書くんですよ」
「ああ、あれかい。マッピングってやつだね。ここで筆記用具を買うヤツは大体それだね。どんなのか見せておくれよ」
出来上がったマップをおばさんに見せると
「えらく綺麗だね……私が見ても分かり易いし、注意点まで書いてあるじゃないか」
昔からノートが綺麗って言われる事が多かったんだよね。
「アンタ、これ売れるよ。ウチで売らないかい?」
「これはタラオにプレゼントする物ですけど、売れるなら何枚か書いて卸しますよ」
すぐに話はまとまって売れたら売上金をそのまま貰える契約になった。客寄せになるからそれでいいと言われた。
タラオにマップを渡したら凄く喜ばれた。何度行っても未だに迷うらしい。
「これもある意味スキルだな……」
「『マッピング』ってスキルは無いの?」
「無いな。始めからオートマッピングだったからな。追加して欲しいが修正は無理だろうな」
「元の世界に戻してもらうのが先ね」
何故だか分からないけどゲームの世界に召喚された。管理者が居るなら最優先なのは私達を元の世界に戻す事だわ。
しばらくして錬金術のスキルが生えた。意外と早かったね。頑張っているタラオの木工スキルはまだ生えていないのに。
「スキルが生えるかは運なんだ。運がいい時は1回で生える時もあったな」
「索敵もゲットしたし私って運が高いのかも」
『テッサロサ』ではステータスが見れないらしい。ステータスと何回も言って見たけど画面が現れる事は無かったし、鑑定してもステータスは見る事が出来なかった。だから運のステータスが幾つなのか知る事が出来ない。
「居るんだよなやけに運がいいヤツって……中々出ないレア物をあっさりと1発でゲットするヤツ」
今日は家で錬金術を試みる。用意したのは魔法陣を書き写した羊皮紙と底が平らな小さいフラスコを2つ、そのフラスコの開口部は鍛治屋さんで作ってもらった管で繋がれている。片方のフラスコには井戸水、もう片方は空。簡単な蒸留装置ね。
「爆発とかしないだろうな? 複雑な魔法陣をパッと見ただけで覚えられるとはとても思えない」
道具屋さんで蒸留水を作る時、薄っすらと魔法陣が浮かび上がる。その魔法陣を記憶して羊皮紙に書いて見たの。
「この羊皮紙の上に魔石を置けば、加熱の魔法が発動すると思う」
タラオは部屋の隅まで遠ざかっている。結構ビビリね。スライムの魔石を羊皮紙の上に転がした。薄っすらと魔法陣が発光する。次第に水がグツグツと沸騰して空のフラスコの方に水が溜まり出した。成功ね!
「魔導具師ってジョブがあったな。錬金術師よりそっちに近くないか?」
魔導具師は『魔道具作成』スキル、錬金術師は『錬金術』スキルが固定スキルだとタラオが教えてくれた。各ジョブには固定スキルがあり、そのスキルはスキルLVが上がりやすいらしい。
「まずはスキルを生やすのが重要だ。スキルさえ生えればどのジョブをやっていてもスキルLVが上がる可能性がある」
「タラオは何で色々やらないの?」
「俺は習得したスキルを全てLV上げしないと気が済まないからな。スキルが沢山あったら時間が足りなくなってしまう」
「そう言えば、調理スキルをゲットしなかった?」
「えっと……増築の準備をしないとな!」
かなり料理をするのが嫌らしい。
ゲーマー魂を見せてもらおうかしら!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます