第5話 ダンジョンおっさん
エルフの美少女、アリスは錬金術師を目指すらしい。まあ、金儲けにはいいかもしれない。
だが、生き抜く為に重要なのはLVを上げる事だ。その重要性だけは理解して欲しいところだが本人次第だな。
アリスと一緒に初心者ダンジョンへ向かう。
ゲーム『テッサロサ』には少ないが決まり事がある。それは……
・ゲーム開始地点周辺に小さな村がある。
・ゲーム開始地点周辺に初心者ダンジョンがある。
・ゲーム開始地点周辺の敵は弱い。
当たり前のようだけどゲームサービス開始直後は違ったんだ。普通に最強クラスモンスターの巣窟から開始しないといけない事とかがあった。しばらくしてから修正があったけどな。
初心者ダンジョンはとても発見しやすい。草原の中にポツンと岩山がある。オーソドックスな洞窟タイプのダンジョンだ。
スキル上げはしっかりしてあるから、ゴブリン程度にやられるとは思わないが油断は禁物だ。
アリスと協力しながらゴブリンを狩っていく。
「倒すと魔石とドロップ品が残って、遺体はダンジョンに吸収される仕様ね」
アリスはラノベ知識ですぐに納得したようだ。しかし、俺は納得がいかない。
「食べれるモンスターもいるんだぜ? これじゃあ食料の確保が出来ないじゃないか」
もっと先に進むと肉が得られるモンスターもいる。
「多分、ダンジョンの外にいるモンスターは消えないわ。その代わり解体が必要だと思う」
むむ……解体だと? そんな必要、ゲームには無かったぞ。
「ここはゲームの世界じゃないわよ?」
「ついゲーム基準で考えてしまうな。悪いクセだ」
お! ゴブリンを倒したらゴブリンナイフをドロップしたぞ。
「ゴブリンのナイフを貰っていいかな?」
武器は馬鹿みたいに高いから汚いゴブリンナイフでも重要な武器だ。アリスには丁度いい。
「構わないよ。まだしばらくは体術オンリーでいくから俺は要らない」
スキルLVが狩り場の上限に達するまで他の攻撃スキルには手を出さない。
アリスは俺とは真逆のタイプだな。いろんな武器を使って試している。といっても木の棒に石を縄で固定した石斧とかだけどな。
「普通、女の子はゴブリンをナイフで刺すのとかビビリそうだけど、君はそんな事ないな」
「医学部だからかな。全く抵抗がないわね」
早速、手に持ったゴブリンナイフでゴブリンを滅多刺しにしている。ちょっと怖い……
美少女エルフが初めて手にしたナイフでモンスターをザクザク刺し殺していく。短剣スキルが生えてないから威力が弱い。何度も刺さないといけないんだ。
「ダンジョンの外でゴブリンを倒したらヤバイ事にならないか?」
「グチャグチャの死体が出来上がるわね。後始末も冒険者のマナーよ」
返り血を生活魔法で洗ってあげた。こんな用途で魔法を使う事は考えていなかったな。
グチャグチャは嫌だな……
後始末も面倒だ。埋葬もしくは焼却しないといけないらしい。
ダンジョンオンリーでいくかな……
しかし……ダンジョンも厄介だな。マップが全く分からないんだ。自動マッピング機能で通った道は記憶されるのが普通だろう……これじゃあ大昔の3Dダンジョンゲームと変わらないぞ。
「攻略本売ってないかな?」
「攻略本って何?」
おい! 攻略本を知らないのか!?
「ダンジョンのマップとかが書いてある本だよ。ネットが無かった頃は攻略本を見ながらゲームをやったんだ。これだから最近の若いもんは……」
「これくらいなら簡単に覚えられるでしょ?」
「……すぐに忘れるんだよ。自動マッピングに慣れてしまったというのもあるけどな」
スマホゲーなんか自動レベル上げまであるんだぞ。決しておっさんだから忘れっぽいとか無いし!
「私が覚えているから大丈夫よ」
俺が覚えないと意味が無いんだよ。
ん? そうか……
「あらかじめ言っておくけど、俺がパーティーを組むのはここまでだからな」
「え!? 何で??」
「俺は基本、ソロのプレイヤーだ。どうしてもって時だけパーティーを組むんだ」
せっかく異世界に来たんだ。とことんLV上げを楽しみたい。誰にも遠慮せず、気ままに楽しむのが俺のプレースタイルだ。
「解体するのは大変だと思うけどな〜〜」
「う……それは……」
「たまにLV上げを手伝ってくれると助かるかな」
「わ、分かった。それくらいならいい」
ソロで活動する時間が確保出来るなら問題無い。
「住む所はどうするの? 出ていった方がいい?」
そこまで考えていなかったな……
「……ルームシェアってやつにするか?」
おっさんには理解出来ない暮らし方だが、若者の間では当たり前らしい。
「あなたがそれでいいなら助かるわ」
プライバシーが確保出来ていないから増改築は必要だろう。よく分からんからアリスに間取りを考えてもらおうか。
初心者ダンジョンをクリアすると宝箱が貰える。その中にはスキル書が入っている。スキル書を読めばスキルが得られるんだ。ランダムだが初心者向けのスキルを手に入れる事が出来る。
「木工スキルが手に入ればいいんだがな」
戦闘系なら回避スキルが欲しい。生産系なら木工スキルだな。まあ、ここで手に入るスキルは冒険してれば生えるスキルばかりだ。
「フロアボスもゴブリンなの?」
「ああ、ゴブリンリーダーだ。ナイフ以外の武器を装備しているから注意な。かなり弱いが魔法を使えるゴブリンを1体従えている」
ゴブリンマジシャンにまだなっていない見習いって程度の魔法使いだ。
「魔法タイプを先に倒して、次にボスかな?」
「セオリー通りならそうだな。そこまでする必要も無い敵だが安全にいくか」
片手剣と皮の鎧を装備したゴブリンリーダーが中央にいる。人と同じくらいの背丈だ。その後方に木の棒を持ったゴブリンが控えている。
「ゲーム通りだな。いくぞ!!」
サクッと魔法タイプのゴブリンを倒し、ボスのゴブリンリーダーも圧倒した。
目の前に宝箱が2個現れた。
「先に選んでいいぞ。初回クリア特典で必ずスキル書が入っている」
「次にクリアした時、宝箱は出ないの?」
「出るよ。ただ、中身は装備品だ。スキル書や魔法のスクロールも出るけど稀だな。確か1%だったかな」
何度もクリアして剣や鎧を集めるのが鉄板だ。
ゲームでは何とも思わなかったが、現実に宝箱を開けるのはワクワクするな。よし!
『 調理のスキル書 』
「……最も要らないのが出たな」
青い表装の本を開くと本が光を発した。これで調理スキルがLV1になったはずだ。
アリスはどうだろう?
「私は『索敵』だったわ」
索敵か……ハズレだな。ちょっと索敵レーダーが広くなるだけのスキルだ。
「まだ中身を見てないけど譲渡OKなの?」
ん? スキル書を開かずに鑑定したのか。表装には何も書かれていないからな。
「譲渡、売却も可能だ。ゲームでは1ゴールドだったが……」
「スキル書の価値はもっと高いわ。1ゴールドなんて有り得ない。そうね……最低でも1万」
アリスはちょっと考えていたが、スキル書を開いて索敵スキルを習得した。
「この索敵スキルは超優秀だと思う。100万ゴールドでも欲しがる人がいるかも」
何を言っているんだ?
ハズレスキルの代表なのに……
んん? 待てよ……
俺は索敵レーダーが無いぞ?
ゲームなら画面にレーダーが表示され、敵の位置は赤いマークで分かる。スキルなんて無くても……
「ひょっとして敵の位置が分かるのか?」
「フフフ、バッチリよ!」
索敵スキル、超欲しいんですけど〜〜
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