第44話 Marriage Knot

 桐哉さんは、私をソファに誘った(いざなった)。私は満ち足りた気持ちで深々と座った。彼はあのファイルをまためくっていた。そして、一枚のメモを抜き取った。

「僕はデザイナーズブランドを立ち上げようと思っています。留学して、さらに技術を磨いた結さんをチーフデザイナーに招聘しますよ」

「素敵……」

 メモを見せてもらうと、たくさんの単語が殴り書きされていた。読めないけれど、きれいな筆記体だ。桐哉さんが前からのぞきこんで、一つの語を指さした。

「これが、僕と結さんのブランド名の候補です」

「なんと読むんですか?」

「”Marriage Knot”(マリッジ・ノット)。結瀬と結、二人の名前を取り入れました。ちゃんとした英単語ですよ。意味は……「結婚の絆」です」

 Lacy Knotから、Marriage Knotへ。二人のブランドができるのだ。私は早くなる鼓動を抑えようとちょっと微笑んで胸もとに手をやった。桐哉さんは見守ってくれている。そして、照れくさそうに笑った。

「最初の作品は、僕が編んだシンブルです。そして、次の作品は、レースでベールとドレスを編むつもりです。さらりと、インドのサリーのように纏える、一枚の大きなドイリーです」

「ありがとうございます。では、私は桐哉さんのために今度はボウタイを」

「なんだか、ブライダル専門のハンドメイドブランドになりそうですね」

 私たちは声を立てて笑った。お互いの未来を編むレース。なんて素敵なの。

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