第32話 女の友情
私は、さっと血の気が引いていくのを感じた。「特ダネ」に得意になっている茉祐は、そんな私の様子に気づかずに耳打ちをやめない。
「なんと、二人で編み物してたの。結が編んでいるような、かぎ針編みの作品を見ながら、楽しそうになにか話してたのよ。私が見かけたのは、婚活パーティーで知り合った人と行った高級バーで、だったんだけどね。会員制のバーだったかなあ」
「……『Knitted Celebrity』?」
「あ、そうそう。知ってるの?」
「……なんとなく」
私はそっけなく返した。目元が震えて、目の奥が熱くなってきた。
「結、どうしたの?具合悪そう」
茉祐が心配そうに私の顔を覗き込む。
「茉祐、ごめん。私、帰る」
「え?まだいいじゃん」
「ほんと、ごめん。今日はおごるから、帰らせて」
私は茉祐の答えも聞かずに立ち上がった。そして、なるべく自然な笑みを絞り出すようにして、表情を作った。
「大丈夫よ。心配しないで。明日になったら、きっと治ってる。ちょっと、胸が痛くなって」
笑顔を作ったつもりでも、さすが親友の茉祐には私の動転がわかったようだ。彼女は猫のように口元をほころばせた。
「……結、なにかあったらいつでも相談に乗るから。今は何も聞かないわ。気をつけて帰ってね」
「ありがとう」
茉祐は優しかった。彼女は、いつもは適当で、遅刻魔で、おしゃべりだけど、本当はこんなに親切で友達思いなのだ。いつかも、私が仕事で失敗して落ち込み、寝込んだ時も、部屋まで来てくれて、何も言わずに一晩中そばにいてくれた。だから、私は茉祐が好きなのだ。
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