第15話 レース編みのラリエット

「そのくらい編んだら、もういいと思いますよ」

 私が声をかけるまで、桐哉さんはすごい集中力でもくもくと編んでいた。かなりの長さの鎖編みができた。私が見てみようと手を差し伸べると、桐哉さんがその手をぐいっと引っ張った。

「ちょっと、桐哉さん……!」

「少し待ってくださいね」

 桐哉さんはバランスを崩しかけた私の身体を支えた。そして彼の方に身体を傾けた状態の私の首に、編んだばかりの鎖編みした毛糸をふわりとかけた。それから手早く形を整え、ちょっとバランスを見てから満足そうに歯を見せた。

「うん、やっぱり似合いますね。鎖編みのラリエット」

 なんと、桐哉さんは習作の鎖編みで私にラリエットを編んでくれたのだ。思ってもいなかった出来事に、頭が働かなくなり、私は首元に落ちかかった鎖編みをぼうっと見つめた。鎖は一定の大きさに編まれている。とてもきれいな編み目だ。確かに手はきついようで、きゅっと締まった編み目ではあるけれど、レースを編むのならこのくらいのきつさの方が編み目がきれいに見える。

「ありがとうございます……」

  私は消え入りそうな声でお礼を言う。桐哉さんの行動のすべてに、どきどきしてしまう私は、もう彼のとりこだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る