高級会員制バー「Knitted Celebrity」

第5話 高級バーにて

「うう、緊張する…… 」

 私は、店内が間接照明で薄暗くもおしゃれに照らし出され、先ほどからジャズや生のピアノ演奏が聞こえてくる都内でも有数の高級バーにいた。


 あのニットタイは、会心の出来だった。注文主がメールで到着の報告をしてくださったのだが、かぎ針でアラン模様が編めることに驚かれた。そして、丁寧な編み目、最後のアイロン仕上げにも好感を持ってもらえたようだ。それはうれしかったのだが、メールの最後に驚くことが書かれていた。

「ニットタイのお礼をしたいので、ぜひ僕の行きつけのバーにいらしてください」

 そんなメッセージだった。普通なら怪しむところだろうが、私はなぜかこの方に会ってみたいと思っていた。オーダーを受注する際に、好みや技法を教えてもらうために交わしたメールでも、この方――八重原(やえはら)様は、豊富なニットの知識と素晴らしい美意識に裏打ちされたコメントを丁寧な文章でつづってくださった。ぜひ、この方とのご縁は大切にしたい。

それに、待ち合わせは高級バーだ。きっと、大丈夫。

そう思って私はこのバー「Knitted Celebritiy」にやってきたのだ。

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