第2話 編み物が好きだから

「結(ゆい)、今日もあのサイトでブツを販売するの?うちの会社、副業禁止なのに、あんたばれたら大変よ?」

「ちょっと、いかがわしいものを売ってるわけじゃないんだから、そんな人聞きの悪い表現しないでよ」

 サンドイッチの最後のひとかけらを飲み込んでから、私は編み物道具を取り出しながら茉祐に抗議した。茉祐はにやにやしながら、アイスティーをごくっと音を立てて飲んでいる。

「ハンドメイドのものって、売れるの?」

「ものによると思う。あとは、写真の質とか、こまめに更新して新作を売り出すとか、作品の世界観を打ち出したものを作るとか……要は日々の努力よ」

「ふーん。私にもできそうなもの、あるかなあ?」

「アクセサリーとか、いいかもよ。でもアクセサリー界の競争は熾烈だけどね」

「じゃあ、マイナーなものを売ればいいかも」

「マイナーなものは、検索してもらえなかったりするから、おすすめとも言い難いかな」

「む、難しい……私は、毎日合コンして楽しくお酒飲んでた方がいいわ」

 ハンドメイドに興味がない茉祐は、その丁寧なゆるふわの巻き髪のように軽めのあくびをしてから、スマホで今日の合コンの予定を確認し始めた。

 彼女の夢は、大人になっても「花嫁さん」だ。常に婚活パーティーに参加し、合コンを企画し、マッチングアプリに登録して……と、それはそれは涙ぐましい努力をしているのだが、悲しいことにお相手はその必死さにひいてしまうのだとか。

「真剣な女には、遊び人しか寄ってこないのよね……」

 とは、妄想結婚式で毎晩花嫁となり、お見合いパーティーの「ヌシ」と呼ばれている茉祐の名言である。

 私はといえば、彼氏がいないのは茉祐と同じなのだが、その理由はハンドメイドにあまりにも凝りすぎているからだ……と思う。ま、女子力が高すぎるのだ、と信じるようにしている。ペットを飼っている女子に恋人ができないということを聞いたけれど、まさにそのようなもので、夢中になりすぎるものがあるからゆえのおひとり様だ。


 

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