Marriage Knot

猫野みずき

初めてのオーダー

第1話 ランチタイムにて

「あー、彼氏落ちてないかなー」

「警察の拾得物係に行ったら?」

「それ考えたこともなかった」

 私たちは、そんなばかばかしい会話を交わしながら、会社の近くの公園でランチタイムを楽しんでいた。

 なんでも手作りするのが好きな私は、いつもならお弁当を作ってくるのだけれど、最近ではマンネリ化したおかずに飽きてしまった。それで、今日は親友の茉祐(まゆ)を誘って、テイクアウトの作り立てサンドイッチを買えるワゴンに行ったのだ。

 私たちは、本場イギリスのサンドイッチマン仕込みというオーナーの、パンにバターをさっと一塗りして注文通りのフィリングを挟んでくれる手際の良さに見とれていた。ついでに惚れっぽい茉祐はそのオーナーにも見とれていたが、彼女の視線はさりげなくかわされてしまった。私はといえば、そのサンドイッチを自宅で再現できないかときょろきょろ落ち着かない視線をオーナーに向け、これまたさりげなく手元と材料を隠されてしまった。

 あえなく撃沈した私たちは、いつものことよと慰めあいつつ、公園のベンチで、まだぬくもりが残るバターのコクと隠し味にマスタードの入ったマヨネーズの辛みが調和したそのサンドイッチに舌鼓を打っていたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る