第9話
冒険者ギルド。
活気の街並みの中に違和感無く佇む一軒の酒場の様な建物。
そこに、東郷は連れてこられていた。
外観とは不釣り合いな重量感のある扉をアイリーンが開けて迷い無い足取りで進んで行くる。
「ようし、ここが登録カウンターだ。」
果たして連れてこられたのは、銀行の窓口のようなカウンター。それも、アメリカの銀行の様に鉄製の柵であちらとこちらが別けられた場所であった。
そこには、受付嬢と思われる眼鏡の真面目そうな女性が座っている。
東郷はそのお役所然とした雰囲気に拒否感よりも安心感を覚えただろう…見えるように古めかしいマッチロック式拳銃が三丁も置いていなければ。
「ジェニー、すまねぇがこいつの冒険者登録をしてやってくれねぇか、ウチの新入りで…」
と、受付嬢に気安く話しかけるアイリーンだったがそこに別の女性が声をかけ…いや、喧嘩を売った。
「あらぁ、糞貧乏ちゃんじゃないのぉ。また文無しになって生きて帰ってきたのぉ?」
「あぁん!?色ボケ娼婦の糞ビッチじゃねぇか!ビョーキ
「「…死ねぇ!!!」」
「え、えぇぇ…」
次の瞬間殴りあいを始める二人に、東郷はやはりドン引きであった。
(こ、これが冒険者のノリなのか…俺はやっていけるんだろうか?じ、自信ねぇー…)
「こういった場所は初めてですか?」
呆然とした東郷に、ジェニーと呼ばれた受付嬢から声がかけられる。
「あ、あはは。まぁ、あまり揉め事に慣れていなくて…いてっ。」
東郷の頭にアイリーン達の喧嘩の流れ弾か、木匙が飛んできてポコリとコミカルに軽く当たる。
東郷は木匙の当たった所を撫でながら、ジェニーに愛想笑いを向けた。
その様子を見たジェニーは…
(ふむ…今ので反感を表に出しませんか…穏やかな振る舞いは商人の様にも思えますが…違いますね。ギラギラした感じが無い。この雰囲気は…あぁ、お屋敷勤めの奴隷か。雇い主が没落して雇えなくなったという所でしょうか?冒険者としては…捨て石にされても直前まで気付けないタイプか…アイリーンさんは、そういったタイプの探索者ではありませんが…何にせよ、あまり長生き出来そうにありませんね。)
目の前のジェニーに、すぐ死にそうな元奴隷扱いされているとは夢にも思わない東郷。
「それで、冒険者登録とはどうすれば良いのでしょうか?」
「ああ、失礼しました。と言っても、そう難しいものではありません。ここに血を一滴垂らして頂ければ、登録は完了します。」
「えっ?血を??」
「そうです。血です。…あぁ、ナイフをお持ちでは無いのですね。ふむ…こちらをどうぞ。」
ジェニーが何処からか取り出したのは、刃渡り15センチ程ドロップポイントナイフだった。
それを受け取った東郷は、二、三秒考えて、自分で血を出すことに思い至る。
そうして親指の腹の皮を切り、血が出ない事に少し焦ってから、更に少し深く親指の腹を刺して漸く血を出すことに成功した。
その血をジェニーが指定する純白の白い板に垂らす。
《…監獄惑星管理システム『ヴァスティーユ』、端末No.96、登録モードアクティブ。》
その板から青緑の光放たれ、ジェニーの目と東郷の全身を隈無く照らした。
《
レトロな雰囲気のこの場所には酷く不釣り合いなSFチックな光景。
電子音声が告げた、監獄やら囚人といった不穏な単語に東郷は酷く混乱した。
「ジェニー…さん?い、今のは…」
「あぁ、この魔道具は60年程前に海底迷宮よりサルベージしたものです。今の声の通りどうやら元は監獄を管理するための物のようですが、冒険者達の管理に便利そうなので流用されています。さて、ではこの指輪をはまる指にはめてください。」
そして、いつの間にか端末の上に現れた指輪を東郷に差し出す。
それは、無人島でアイリーンに渡された物と同じ指輪だった。
アイリーンから渡された物とは反対の、右の人差し指に恐る恐る指輪をはめる東郷。
「はめましたけど…こ、これ大丈ヴァ痛ぁぁ!」
突如、東郷の指に走る痛み。本来なら騒ぐほどのものでは無いのだが、不意討ち気味に襲ってきたそれが東郷に、間抜けな悲鳴をあげさせた。
《ナノマシン投与中…完了。》
「ジェニーさん?これって大丈夫なんですよね!?」
「ごく稀にこの段階で失神する方も居ますが、死亡例はありません。大丈夫です。さて、これで登録は完了です。そちらの指輪が東郷さんの冒険者としての身分を証明するものになりますので無くさないようにしてください。では、お疲れ様でした。」
「ええっ!?あの、お、終わりですか?」
「はい。」
「あ、あの、聞きたいことが結構あるんですが…」
「よぉー、終わったか?」
と、そこでアイリーンから声をかけられる。
「アイリーンさ…うわっ!大丈夫ですか!?」
振り返って、アイリーンを見た東郷は絶句する。彼女の目の辺りには先程までは無かった見事な青アザがあった。
「大丈夫大丈夫、あのあばずれにはきっちり格の違いをワカラセてやった。」
アイリーンが後ろ手に親指で示す先には、先程彼女に喧嘩を売った女性が、バックドロップでも決められたかのように、下着丸出しの尻丸出しで逆さまになってノビていた。
「え、えぇぇ…」
余りの光景に再度ドン引きする東郷。
「さてと、じゃ、これ登録料。ありがとな、ジェニー。」
「いえ、仕事ですので。」
話が切り上げられそうな雰囲気に、慌てる東郷は思わず声をあげる。
「あ、あの、さっきの機械が言ってたナノマシンとか魔力とかの説明をっ!」
その一言に、これまで表情が変わらなかったジェニーがピクリと反応した。
「…東郷さん、今」
「っとぉ、余計な詮索は無しで頼むよ、ジェニー。後の事はアタシがやっとくから。またなー。」
「ち、ちょっと!ア、アイリーンさん!?」
東郷はアイリーンに引っ張られ、慌ただしく冒険者ギルドを後にした。
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