第8話
「おっと。」
揺れない地面に降りた東郷は、それでもまだ足元が揺れている様な感覚に襲われてふらついた。
アルド諸島王国が内の一つ、ガスパ島。
それが東郷の降り立った場所の名だ。
人類の生存圏を広げるために、航海に出て探検する冒険者たち。彼らの拠点としての最前線がこの島だ。
しかし、この人類世界の最前線たる海は冒険者だけの物ではない。
商船の水夫、食を支える漁師、船乗りを相手にする娼婦、商人、農夫、港の役人…
人類の活動領域、その最外縁を支え、暮らしを営む人々の活力がこの島を形作っていた。
港を見れば大小様々な帆船がひしめき合う。その数は千にも届こうかというところ。
東郷の乗っていた『
その船の数に相応しく、島もまた活気に溢れている。
「ほぉー…」
「おら、さっさと進め新入り!後ろがつっかえてンだ!!」
東郷が港の景色に呑まれて呆けていると、先輩船員からお叱りを受ける。
「港に帰ったらまず荷下ろしだ!ほれ、ぼさっとしてねぇで、ゴブリンの嘴運べ!」
「うわわっ、とぉ。す、スンマセン!」
「って、ちげぇ!そっちじゃねぇ!向こうだ向こう!!」
「はっ、はいぃ!!」
先輩に怒鳴られながらも、東郷は指示通りに動く。
彼ら先輩達のアタリがキツいのにも、この短期間で慣れた。
それは彼らが悪意を持って東郷に怒鳴るのでは無いと理解できたからだった。
…海の上は、以外とうるさい。
波や風の音。
判断力を容赦なく奪う直射日光や、陸に比べて劣悪な衛生環境。
そんな状況下で、人は体力は勿論、判断力さえボロボロと取り零してゆく。
自然が奏でる喧騒の中で正しく意思を伝えるために、海に生きる者達の声は大きくなる。
注意の声がハッキリと、そして端的に伝わらないと、それが死に繋がるからだ。
他にも、潮風や酒で嗄れてしまったダミ声では大声を張り上げ、力強くボディーランゲージで意志を示さないと相手に伝わらない。
伝わらないと、相手が死ぬ。
自分が死ぬ。
だからこそ、海の男…いや、海に生きるものは荒くれものだと思われてしまう。
結局の所、彼らは仲間に死んでほしくないのだ。
仲間が死なないように、荒く、辛く接する。
それが、海に生きる者達の流儀なのだと東郷は理解できるようになった。
罵声のような指導のような怒号の下で、荷下ろしに勤しんでいた東郷。
そこに、アイリーンからお呼びがかかった。
「東郷!おい、トーゴー!!登録に行くぞ!」
そんな雑な声かけでもって、東郷は街へと引っ張り出された。
首根っこをアイリーンにひっ捕まれたまま、東郷は街の中心部へ向かう。
道中に見えた縛り首にあった干からびた海賊の死体、うつむき目の死んだ奴隷達。
だが、その足取りは死んでいない。
それだけではない。
大声で商品の宣伝を捲し立てる行商に、収穫したての野菜を売る農民。
活気のある街と言うのはこういう場所の事を指すのだ。
ここで生きる人々は、皆輝いている。
「ほら、着いたぞ
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