第13話 作戦会議
「では、今後の方針について、リビン対策班の見解をお伝えしたいと思います。」
続いて、愛のお父さんで、リビン対策班副班長の
「今回襲撃してきたリビン軍は、アレース神国のリビン第一師団だと思われます。被害範囲が、文京区、北区、板橋区、練馬区、台東区、荒川区、足立区と、東京23区の北側に集中しており、その広さから、第一師団所属のほとんどの部隊が投入されたと考えられます。襲撃事由は解析中ですが、情報が全くなく、わからないのが現状です。行動パターンを見ても、何も規則性はなく、ただ無差別に我々を殲滅しようとしていただけのように見受けられます。」
愛のお父さんは、作戦司令室のディスプレイに東京23区の地図に、現状でわかっているリビン軍襲撃地点を示した。
「そして、浅井巡査の情報から、機動偵察隊であると思われますが、その中に一名の能力保有者を確認しました。名前は『ハイダン』。機動偵察隊の隊長であると考えられています。」
愛のご両親がハイダンと対峙した時に、小型カメラで撮影されたハイダンの画像が、ディスプレイに映された。
「ハイダンの能力は、Increase of Muscle『インクリース・マッスル』すなわち、筋肉増強で、筋肉を強制的に増強させることで、パワーを増強させる古典的タイプだと推測されます。戦闘系に特化した能力のため、おそらく始祖神アレース様から分与された能力かと思われます。そして、今回、私達、能力保有者が日本に存在していることが、ハイダンにバレてしまいました。この情報はすぐに、師団長であるヴィクトリムしかり、アレース様にも報告されることになると思われます。」
「となると、リビン軍はまた攻めてくるということだね。」
今まで黙ってリビン対策班である愛のご両親の話を聞いていた
「そうです。リビンは必ずまた襲来して、我々を捕らえようとしてきます。ただ、すぐに攻めてくるわけではありません。明日4月8日から、一ヶ月はリビンは感謝祭月間に入ります。感謝祭では、親、パートナー、子どもなどと愛を育み、お互いに感謝し合う月間となります。これは、昔から行われている伝統行事でして、この期間は緊急事態を除き、戦闘行為は禁止されております。」
隆副班長は、淡々とリビンの事情や、リビンが攻めてこない理由を述べた。
すると、紡が挙手して、質問する許可を求めた。
「紡くん質問かな?言ってごらん。」
「はい、あの、能力保有者が一度に沢山見つかったことは、リビンにとって緊急事態にはなり得ないのですか?」
「いい質問だね。リビンにとっての緊急事態とは、リビン神国が襲撃されることを意味します。そもそも、リビン神国は、我々とは異なる次元に存在しているため、我々は容易に攻め入ることもできません。現在、リビンには、能力保有者が、子どもへの能力継承中の者を含め15人程度存在すると推定されています。そのため、我々がリビンに攻め入ったとしても、勝機はなく、我々はリビンにとっての脅威にはなり得ないので、緊急事態にはならないのです。では、今後の方針について……」
隆副班長が、今後の方針について話し始めた途端、隆副班長の携帯電話が鳴り、隆副班長は、素早く携帯を取った。緊張した面持ちで、歯切れ良い返事をしながら何かの指示を受けているようだった。
話し終えると隆副班長は、愛のお母さんと防人司令に、耳打ちをし、紡達には5分ほどその場で待機するよう指示を出した。
その間、愛のご両親や、代々木三佐や千代田一佐は慌ただしく、パソコンに配線を繋ぎなおしたりしていた。
5分後、隆副班長がパソコンを操作し、司令室のディスプレイにパソコンの画面を共有した。
『内閣府作戦本部』
そう画面には書かれていた。そして次の瞬間、回線が繋がり、1人の40代くらいの女の人が画面に映し出されていた。紡は、女の人のデスクに設置されている名札を見た。
——内閣総理大臣
そう、そこにはこの国のトップを示す称号、内閣総理大臣と書かれていたのである。紡や愛、琴美は、ただただ驚いていた。
「私は、内閣総理大臣、
「はい聞こえております。」
隆副班長は簡潔に答えた。そして、駒場総理大臣は、凛とした口調で、かつ、ゆったりと話し始めた。
「みなさんご無事で何よりです。リビン神軍への応対ありがとうございました。被害は出てしまいましたが、あなた方がいなければ、もっと大変なことになっていたと思われます。そして、自衛隊の最高責任者であり、リビン対策班班長である私が、今後の方針について指示したいと思います。今回のリビン襲来では、幸いにも能力保有者は2名だけでした。一方は、沙耶監査官や隆副班長が対処してくださり、もう一方は、
そういうと、画面越しに紡達を真剣な眼差しで見つめた。
紡は迷った。そして、愛や琴美も迷っているようだった。
それもそうである。急な提案でもあるし、急に話が人類規模に膨れ上がったのである。
もちろん自分に力があるのなら、それを使って人々を守りたという気持ちもあるが、そもそもまだ上手く能力が使えないのに、リビン対策班に入り、能力保有者と対峙するのなんて、かなり無理な話である。多分死ぬ。
今から修行をしたって、一ヶ月でなとかなる話ではないだろう。
「少し考える猶予をください。」
ゆえに、紡は、駒場総理大臣にそう答えるしかなかった。現状の紡に、今すぐ判断を下すことはできなかった。
「わかりました。良い返事をお待ちしております。それでは、1週間後に改めて伺いたいと思います。では、作戦会議を終了致します。」
駒場総理大臣は、少し残念そうにしながらも、迫力じみた口調で今回の作戦会議終了を告げた。
作戦会議が終了すると、防人司令や千代田一佐、代々木三佐は駒場総理大臣の指示を履行するための話し合いをするために席を外した。
愛のご両親は、すぐにリビン対策本部に戻らないといけないとのことで、帰り支度をしていた。
そして帰る直前に、紡達に向けて思いの丈を伝えた。
「愛や紡くん、琴美ちゃん、今日は大変な1日で、色々混乱しただろうけど、あなた達が生きていてくれて私達は本当に嬉しいわ、紡くんも琴美ちゃんも今日は私達の家に泊まりなさい。さっきの修行の件も先生にお伝えしておくわ。後、無理してリビン対策班に加入しなくて良いからね。」
それだけ言い残すと、愛のご両親は、自衛隊駐屯地を後に、紡達は、愛のご両親に言われたように、愛の家に向かうことにした。
外に出ると、未だ紡の周囲には絶望的な雰囲気が漂っていた。しかし、それとは対照的に、人というちっぽけな存在の気持ちなんて知ったことではないとでもいうくらい、その場に不釣り合いな綺麗な夕日がそこにあった。
紡は、そんな夕日を眺めながら、万人のために尽くすか葛藤し、自分自身と向き合っていた。
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