第12話 君の能力は一体

「まずは、紹介から始めましょうか。改めまして、私は、愛の母親で、神楽沙耶かぐらさやです。こちらは、夫のりゅうで、私達は、総務省所属のリビン対策班です。リビン対策班は、秘密組織で、その存在は一握りの人しか知りません。班長は、内閣総理大臣で、副班長がこちらの隆です。そして私の身分は監査官になります。リビン対策班では、リビンの動向を監視し、有事の際には、リビン兵の能力者に対処し、地球、リビン語ではヴァイサイトを防衛することが主な任務となっています。ちなみに、琴美ちゃんのご両親も私達と同じ、リビン対策班よ」


——秘密組織のリビン対策班?そして、トップが内閣総理大臣?そんな厨二的で漫画的な組織なんて本当に実在するのか?


予想外の言葉を耳にしたため、紡の頭の中は混乱していた。そして、愛や琴美の方を見て尋ねた。


「愛や琴美はこのことを知っていたの?」


「いや、お父さんとお母さんが国の機関に勤めていて、確か公安委員会に所属していると言うのは聞いたことがあるけど、リビン対策班なんてところに所属していたなんて知らなかったわ。」


愛自身も驚いているようであり、琴美も同様であった。


「そして、こちらが陸上自衛隊第一師団長の、防人剛さきもりごうさん。防人さんは、第一師団長以外に、自衛隊の対リビン特殊作戦群司令も務めております。そして、代々木三佐と千代田一佐が、我々リビン対策班と特殊作戦群との連絡役を務めていただいております。また、特殊作戦群には、リビンから逃げてきた人の保護と、リビンからのスパイの捕獲をお願いしております。」


「あの〜自衛隊の中にも能力者っているんですか。」


琴美が恐る恐る手を上げながら質問した。


「自衛隊の方々の中に、能力保有者はいないわ。我々、リビン対策班の分析では、リビン兵の能力保有者は、リビン王国軍にとって大変貴重であるため、スパイ活動くらいでは、地球に降りてこないと予想しているの。また、こちらにも小型リビン探知装置という能力保有者の能力の痕跡を追尾する機器があるため、スパイが能力者かどうか判断することは可能よ」


「あの、いいですか?リビン兵には、銃が効かなかったんですが、あれはどうしてですか?」


今度は、浅井巡査が、質問した。


「リビンには、5人の始祖神がいて、5つの神国がありました。5人の神は、各々に自分の国を統治していまして、その神の1人に、絶対防御の能力を持ったアテーナ様がいます。リビン兵は、そのアテーナ神の能力を解析し、その劣化版になりますが、『レセプター』という歩兵携帯型シールドを完成させ、全ての兵士に携帯させています。この『レセプター』は、リビンで取れる鉱石『リガンド』から作られる弾薬か、能力で補強した弾薬しか貫通しません。リビン兵の弾薬はリガンドから作成されるため、レセプターを通過できます。しかし、我々の通常武器では、レセプターを通過することができないのです。」


なるほどなるほどと、浅井巡査は頷きながら、今聞いた話を頭の中でまとめていた。


一方、紡にとっては、完全な情報過多であった。右耳から入った言葉が、脳を介さず左耳から出て行ってしまっているような気分であった。


だが、紡には聞いておかなければならないことがあった。


「あの〜聞きたいことが沢山あるんですが……、愛のお母さん、あなた達は、リビンから逃亡してきたんですか?なんで能力を使えるんですか?それと、俺のこの能力は一体なんなんですか?GA-5値5000とか言われていたんですけど。」


————————


沈黙が空間を支配した。愛のご両親は、言うか言わざるべきか思案しているようであった。


「そうね、あなたには伝えておくべきかもしれないわね。私は、20年前まで、神アトゥム様の側近として、お仕えしてたの。アトゥム様は、時空間を操る神で、アトゥム様から直接、能力を分与していただいたため、今こうして『弾丸の軌跡を操る』能力が使えるのです。ただ、能力は子どもが15歳になった時に、自動的に引き継がれるの。その時、完全に同じ能力が引き継がれるわけではなく、同じ系統の能力が発現するのよ。だから、愛には、私の能力と同じ系統の能力が開眼していて、数分先の未来を予測できる、『未来予知』の能力が備わっているわ。そして、子どもに能力分与が始まると、私たちの能力は次第に失われていくの。とっても使い勝手は悪いのよ、能力って。後、ちなみに、琴美ちゃんもなんらかの能力を開眼しているはずよ。」


紡は、琴美の方を見て『本当なのか?』と言う、無言の圧力をかけた。


「えへへ、実は、私の能力は『Brave(ブレイブ:勇気)』っていう、あんまり使えない能力なんだ。」


気まずそうに、琴美は自分の能力について開示した。


愛のお母さんは琴美が話している間に、一旦、持っていたペットボトルの水を口に含み、喉を潤し、紡の質問に答え続けた。


「後の質問は、紡君の能力が何かよね。これは、分からないわ。正直、私達も驚いているの。あなたのご両親がリビンから逃げてきたなんて情報はないし、あなたの親戚にリビンの関係者がいるとの情報もないわ。後、不思議なのは、GA-5値が5000だったのよね。能力というのは、神から分与された時が大体GA-5値が1000くらいなの。そこから各々の努力によって能力を高めていくものなのよ。なので、紡君のGA-5値 5000と言うのは、かなり訓練しなければ出せない数値なのよね。しかもそれぐらいの値になると、能力を操作するのも難しくて、能力操作方法の訓練をしないと常時能力が溢れ出てしまっている状態になり、すぐにリビン兵に探知されて捕まってしまうはずなの。だけど、紡君には、能力の漏れがなく、そしていきなり5000 GA5値を叩き出して、そして、今はすでに紡君には能力の痕跡は全くない状態なの。こんな経験ないから、なんとも言えないのよね。」


愛のお母さんは、困惑の表情を浮かべ、何か紡の能力が一体なぜ開眼したのか解決の糸口になる情報はないかと考え込んでいた。


「……もしかしたら、あの人ならわかるかもしれない。」


愛のお母さんはそう呟くと、紡に向けて真剣な眼差しで話し始めた。


「紡君、あなたがリビンの関係者かも分からないし、なぜ能力を開眼したかも分からないけど、能力を開眼してしまった以上、能力操作法の訓練を受けてみない。」


紡にとって予想外の展開であった。能力操作法をここ日本で訓練できる?

能力操作法を学んで、みんなを守れるなら願ったり叶ったりだと紡は思った。

しかし、一つ疑問が残った。


「だけど、ここで能力を使ったら、リビンに探知されるのでは?」


そう疑問を直球でぶつけると愛のお母さんは、微笑みながら返答した。


「実はね、我々は、現代の持てる技術を結集して、小さいスペースだけだけど、リビンに探知されない保護フィールドの設置に成功しているの。能力も訓練していないとすぐに腕がなまってしまうので、私たちは、そこで訓練しているのよ。そして、その訓練施設では、リビン神国にて能力操作法を教えていた先生が、実は私達と一緒に地球に逃げてきているのよ。」


——そんな施設があるのか……それならば、リビンにバレることなく能力を学べるか……


紡は、本当に能力操作法を学ぶかどうかの最後の思案を巡らせた。


「分かりました。愛する人を守ることができるならば。今回、守るには力が必要であることを私は実感しました。ですので、能力操作法を学ばせてください。私は、強くなりたいです。」


愛のお母さんやお父さんは、優しい目で紡を見つめて、頷いた。


「あの〜私達も、一緒に学びたいんですけどいいですか?」


愛と琴美も、そろ〜っと手を上げながら、参加の意思を伝えた。


愛のご両親は、目を丸くしていたが、これから有事が重なるかもしれず、能力保有者は積極的に狙われる可能性があり、自分の身は自分で守れた方がいいため、愛と琴美の訓練参加も許可した。


「では、ここから本題に入りましょうか。」


ここまで、かなり込み入った話をしたが、まだ本題には到達していなかったらしい。今度は、愛のお父さんが代わりに話し始めた。先ほどの空気感とは違い、急に空気が張り詰め始めた。

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