第9話 リビン対策班

——俺の人生は、何も守れない人生だったのか。最後に誰かを守りたかった。誰も傷つかない、傷つかせないそんな奴に俺はなりたかった……、愛と、もっと色んなところに行けばよかった……


紡は、後悔にさいなまれながら、次第に意識を失っていった。そして、走馬灯が、現在から過去に向け流れだした。


——入学式、愛の制服姿可愛かったな。毎日呼びにきてくれて、お節介なところが俺、嬉しかったんだな。あいつ小学校の時の調理実習でクッキー焦がしてたな。幼稚園の時は、一緒にお遊戯ダンスを踊ったけな。そういやお遊戯ダンスで、愛の二の腕をぷにぷにしたら、愛めっちゃ怒ってたな。そんで、琴美にも怒られたっけな。3歳くらいの時には、好きなおもちゃを買ってもらえなくて駄々をこねたっけな、そんで母さんと親父を困らせたっけな、結局親父と母さんは、おもちゃを買って……?あれ、違う、あの時親父と母さんは、ペンダント見たいのをくれたんだっけ?あれ、この記憶の人達は誰だ?親父と母さん、ではない??


ハッと紡は目を覚ました。現実に帰って来た。


目の前を見ると、ハイダンが刀を振り下ろしてきた。


紡の体はトラックの荷台に食い込んで、もう動かない。だが、紡は、最後の力を振り絞り、ハイダンを威嚇するために叫んだ。


「うぉぉぉぉおおおおおおおおおお。」


「まだ、叫ぶ力があったのか、だがもうおしまいだ、死ね小童こわっぱ!!」


紡は、ハイダンの振り下ろす刀を、その瞬間を、じっと見つめた。目を逸らさないことが、紡にとっての最後の抵抗であった。




——バンバンバン



紡は、聞いた。後方からの3発の銃撃音を。


紡は、視認した。1発は自分に振り落とされていたハイダンの刀に当たり、刀が宙を舞い、吹き飛んでいくのを。あと2発は、バイデンの腕に直撃したことを。


「紡君、大丈夫!?」


聞き覚えのある声が、空中を鋭く飛んできて、紡の耳に入ってきた。


続いて、もう一つの人影が、ハイダンと紡ぐの間に割って入り、


——ダ、ダ、ダ、シュ、シュ、シュ、ダン


その人影は、ハイダンに打撃を加え、最後の一撃で、防御姿勢で腕を体の前でクロスさせているハイダンを敵部隊の中心まで吹き飛ばした。


「何だ、こいつらは!?」


ハイダンは叫んだ、すかさずアイシャ少尉が、ハイダンに忠告を飛ばした。


「ハイダン隊長、新手の2人は能力保有者です!さっきの攻撃のGA-5値は、二人合わせて、25000です!」


「ちっ、厄介なやつらが出てきたな。」


紡の前に現れた奴により吹き飛ばされたハイダンは、警戒心をむき出しにして、2人の乱入者を睨みつけた。


——聞き覚えのある声、見覚えのある風貌、俺は、この二人を知っている。


「我々は、総務省所属、リビン対策班です。」


男性の方が、高らかに自らの所属を述べた。


「紡君、間に合って良かった。もう大丈夫だからね。」


女性が紡の方に振り返りながら、紡の意識がまだあることを確かめた。


「お父さん、お母さん!」


愛が、安堵の表情を浮かべながら、叫んだ。

そう、この二人は愛のご両親である。


——そういえば今日、愛のご両親は、公務で入学式に来れないって言ってたな。


紡は、愛のご両親が、仕事で入学式に来れないと言っていたことを思い出した。



「愛も琴美ちゃんも良かった、無事みたいね。愛に渡しておいた、小型リビン探知サーベイメータが反応したから、急いで愛を探しに来たのよ。そしたら、危機一髪だったみたいね。」


『あ、そういえば』といいながら、愛はリビン探知サーベイメータを見た。


そして、愛のご両親は今度は、全体に向かって話し出した。


 「皆さん、ここは、私たちが引き継ぎ、対処します。皆さんは一刻も早くこの場を離れてください。」


愛のお父さんとお母さんは、紡達の前に立ち、リビン兵と対峙した。


その間に、浅井巡査が、急いで紡をトラックの荷台から降ろした。そして、愛と琴美は近くに交番にあった交番から、担架を拝借し、紡を乗せ、急いでその場を離れようとした。


「おいおいおい、感動の再会ってやつを俺の善意でやらせてやっていたのに、誰の許可をもらって、逃げようとしているんだい?お前ら、何か勘違いしているようだが、今、この場を支配しているのは、この俺だぞ。」


話し終えると同時に、大きさ1 mほどの瓦礫を愛の両親目掛けて投げた。


瓦礫は、野球選手のストレートボールのような勢いで、迫ってくる。


愛の父親が前に出た。



「能力解放、『Absolute Restitution (アブソリュート・レスティチューション(絶対反発)』」


——ドン!


愛の父親は、瓦礫を殴った。殴った瞬間、瓦礫は飛ぶ向きを変えてハイダンの方に向かって行った。

ハイダンは、返された瓦礫を拳で叩き割った。


「能力解放、『Difinite Locus (ディフィニット・ローカス)(確定軌跡)』」


そういうと、今度は、愛のお母さんが、拳銃を構えて発砲した。ハイダンは、さらに増強した筋力にて地面を叩き割り、前方に瓦礫を飛ばして銃弾から身を守った。


が、しかし、愛のお母さんが放った銃弾のほとんどが、ハイダンが飛ばした瓦礫により落とされたが、一発がハイダンの脇腹に命中した。ハイダンは、よろめた。


「早く逃げて!」


愛のお母さんは、キョトンとハイダンと愛のお父さんとお母さんの戦闘を見ている紡達を急かした。そして、訓練された動きで、マガジンを入れ替えてリロードした。


「何だ、お前らは、何なんだお前らの能力は、それに、何故お前の銃は俺に当たるんだ!許さん、俺の体に傷をつけた奴は、絶対に許さん。お前らは、俺の最大能力で始末してや……。」


ハイダンが激昂して、我を忘れかけたその時、


「隊長、ここは戦略的撤退を!!」


アイシャ少尉が隊長の腕を掴み制止した。


「アイシャ少尉離せ、今ここで逆賊どもを滅っさなければ、機動偵察隊隊長の名が廃る。ここで引き下がるわけにはいかないのだ!」


「いえ、今この状況は数的不利です。力では、隊長が優っていようと、戦略を立て直し、再度攻め入るべきです。それか、他の部隊に応援要請を出すべきです。」


「そういうわけにはいかぬ。お前達、アイシャ少尉を少しの間抑えとけ、行くぞ逆賊ども、我が全身全霊を受けて塵と化すがいい、『能力解放……』」


ハイダンは、アイシャ少尉を引き離し、さらに能力を解放しようとした……

その時、


——ビービービービー


空に警報音が鳴り響いた。


「こちら第一師団長ヴィクトリムである。1時間が経過した。神の余興は、これにて終了する。ヴァイサイトにいるリビン兵は、直ちに転送準備にとりかかり、帰国せよ。以上。」


「ハイダン隊長、状況終了の命令です。」


部下の一人がハイダンに告げた。


「ちくしょう!」


ハイダンは拳を地面に突き立てた。


「……仕方ない、命令は命令である。しかも今回は、神命である。やめろと言われたならば、やめなければならない。よし、即座に撤収する。準備ができたものから帰国せよ。いいか、ヴァイサイトにいるリビンに仇なす者達よ、お前達は地獄の果てまで追い詰め、必ず殺す。その時まで、せいぜい最後の余生を過ごすんだな。」


そういうと、ハイダンとその部隊員は、光の中に消えていった。


そして、それを見届けるしかなかった紡は、ハイダン達が去るとすぐに、緊張の糸がほぐれて気絶した。



 





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