第8話 能力開眼
カキン——
人の肉を切る音にしては、不可解な金属音がした。
ハイダン隊長は目を疑った。
「お前、一体何者だーー!!!」
ハイダンは絶叫した。それと同時ぐらいに、アイシャ少尉が持つサーベイメータから警告音が鳴り響いた。
「ハイダン隊長注意してください、GA-5値が、5000を瞬間的に超えました。」
「なに!!?5000を超えただと。」
ハイダンは現状を飲み込めずにいた。
——5000 GA-5値は、とどのつまり、部隊長クラスに匹敵する。こやつは、神から能力を授かっていたのか?いや、こんな子供であれば、5000 GA-5値なんて能力をうまく扱うことなんてできず、体から自然にGA-5が漏出してしまい、すぐにヴァイサイト能力検知所にて捕捉されるはずである……、『今、能力開眼したのか?』、いやいやそんなことない、神からの分与なしに能力開眼など、絶対にありえない!
「
ハイダン隊長は、能力『Increase of Muscle (筋骨増量)』を発動し、鉄の棒で刀を受けている紡を吹き飛ばした。
吹き飛ばされる時、紡は、愛を片手に抱え、愛をハイダンから引き離すことに成功した。
「アイシャ少尉、私のGA-5値は、どれくらいだ。」
「はい、ハイダン隊長、隊長のGA-5値は、30000です。あの少年の6倍です。」
ハイダンは、異常事態の元凶である紡を睨みつけた。一方、紡は、自分の人智を超えた行動に、狼狽していた。
——なんだこの力は、敵はすでに刀を振りかざしていたのに、俺は、その刀が愛に達するまでに間に合い、刃を受け止めた?この鉄の棒はどこから持ってきたんだ?ああ、道路脇の柵が一部変形して、むしり取られたような跡がある。俺は、あそこからこの棒をむしり取ったのか?俺にそんな力があったのか?いや、そんなことを考えるのは後だ!
紡は、前方でこちらを見据えているハイダンとおよそ10 mくらいの距離で相対した。
「愛、大丈夫か?」
愛は、紡の方をじっとみて、現在起きていることを冷静に分析しているようであった。それからゆっくりと、口を開いた。
「紡……。」
愛も明らかに狼狽えている。琴美の方を見ると、琴美も『あわわわわ』とその場で立ちすくんでいる。ここにいる奴らのほとんどが、狼狽えているという不思議な雰囲気が辺りを包んでいた。ただ二人を除いては。
「お前の名は、なんと言う。少年よ。」
「俺の名は、五ノ
紡の声は震えていたが、それでも恐怖に打ち勝とうと必死に、大声で叫んだ。
「アイシャ少尉、直ちに照会せよ。」
「五ノ神紡、中学生、リビンでいう第10回生です。父親は五ノ
「未知の能力保有少年ということか。しかも中々に強いみたいだ。」
ハイダンは、ふむふむと頷きながら、鋭い眼光で紡を睨んだ。
紡は、その眼光にたじろぎ、ハイダンの威圧感に一歩引き下がった。
「俺の刃を受けきるとは、言語道断。絶対に許せぬ。紡といったか?お前は、私がここで叩き斬る!」
みるみるうちに、ハイダンの大腿四頭筋や上腕二頭筋など、ありとあらゆる筋肉が増強されていく。
「さあ来い、少年よ、我が全身全霊をかけてお前を打ち砕く。お前の全力を見せてみよ。」
——もう行くしかない。愛達を守れるのは、今、俺しかいない。
紡は、覚悟した。
次の瞬間、紡は、ハイダン目掛けて駆け出した。
「おりゃあああああああああああ。」
——あれ、おかしいな。
紡は、すぐに違和感に気づいた。さっきより全然速力が出ていない。さっきは、自分でも気づけないほどの速さでハイダンと愛の間に割って入ったのに、今は、人並みの速さでしか走れていない。
「どうした、少年、遅すぎる。先ほどの力はどうしたーーー!」
そういうと、ハイダンは下から刀を振り上げ、紡に斬りかかった。
紡は、日頃、道場で竹刀を振っていた努力が功を奏して、なんとかハイダンの刀に、鉄の棒を当て、斬り上げられることは防いだ……だが、
紡は、いとも簡単に吹き飛ばされ、愛達の後方で道を塞いでいた。大型トラックの荷台にめり込んだ。
「ぐはっ……」
紡は吐血した。
「弱すぎる。どうした少年、先ほどの力はどうしたんだよ!これ以上私を怒らすなよ!」
「もしや、能力をまだうまく扱えないのでは?」
アイシャ少尉がハイダン隊長に具申した。
「ふむ、その可能性もありうるな。では、少年に問おう、お前はその力どの神から賜ったのか!」
「知らない!」
紡は、正直に答えた。そう、紡にだって理解できていないのである。紡は、本当に何も知らないのである。
「知らないなんてことあるか、その能力は、絶対的存在である神から分与されなければ使うことができない。しかも、お前は先ほど、子どもにも関わらず、5000 GA-5という驚異的な能力値を叩き出した。知らぬ存ぜぬで通せるとでも思ったか!!!!!」
ハイダン隊、最大級の大声で威嚇した。周囲の建物の窓ガラスなどが、ハイダンの大声による空振により、ガタガタと震えた。
「……………………。」
紡は、意識が朦朧とし始めていて、ハイダンに応答することができなかった。
「返答なしか。所詮リビン脱走兵の末裔だろう。能力の使い方もまともに教えらることができない、クズ達の子どもであったということか。よし、こやつの首も持って帰って、師団長に報告しよう。そこにいる、愛とやらも、少し待ってろ、この少年の首を斬り落としたら、お前もあの世に送ってやる。」
ハイダン隊長は、一歩一歩、愛達には、目もくれず紡に近づいた。
愛や琴美は、紡を起こそうと、必死に『紡〜』と叫び続けている。
——ああ、俺死ぬんだ、かっこ悪いな。やっぱり俺は弱い、ごめん愛、守れなかった。神様、いるなら頼みます。愛と琴美を……守ってください。
そう紡が願った時、ハイダン隊長は刀を振り下ろした。
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